【読書ルーム(104) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜 新たな段階とボーアの参加 4/8 】  作品の目次

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【本文】

チャドウィックとボーアらの一行は首都ワシントンDCで政府高官と面談した後、テネシー州オークリッジのウラニウム分離工場に赴いた。


テネシー州ノックスビルから十キロほど離れた、クリンチ河と松林に囲まれた総面積二百三十八平方キロメーターのオークリッジ工場用地の全体は「X 地点」という暗号名で呼ばれ、三万二千人の建設労働者が建設した敷地総面積約十七万平方メートルの工場で四万七千人の労働者がウラニウム235を分離する各種の業務に従事していた。

 

四年前に連鎖的な核分裂の惹起に必要とされるウラニウム235の分量は数トンにのぼると語ったボー
アの考え方はすでにフリッシュやパイアールズによって修正され、フェルミが実行に移して成功を納めていたが、必要量のウラニウム235を天然ウラニウムから分離するのには何千年もの歳月が必要とされるだろうというその時のボーアの予言に挑戦するかのように、オークリッジではウラニウム235の分離が、ボーアが想定していた遠心分離法よりもはるかに効率的な方法で実行されていた。シカゴ大学でのフェルミの実験の際に用いたカドミウムなどのように、中性子を吸収する物体が核分裂の反応速度を制御するために用いられればウラニウム235の発電などの平和目的への使用が可能性であるが、もし核分裂の制御が行われなければ、それは破壊的なエネルギーの放出につながるのである。オークリッジの施設を視察したボーアはその両方の可能性がすでに手の届く範囲内にあることを悟った。

 

天然ウラニウムに含まれるウラニウム235は当初にレズリー・グローブスが計画したとおり、電磁分離法とガス分離法の二つの方法を並行して採用することによって分離されていたが、一九四四年にはアメリカ海軍が独自に考案した熱分離法も並んで採用された。


ウラニウム235の三つの分離方法のうちガス分離法は、一九三三年にナチス政府を公然と非難してゲ
ッチンゲン大学を追われたジェームズ・フランクが当初に考案した方法で、オークリッジではコロンビア大学から出向してきた重水の発見者でノーベル化学賞を受賞者のハロルド・ユーリーが開発の責任者を務めていた。オークリッジに建設されたウラニウム・ガス分離工場は「K-25」の暗号名で呼ばれ、四十四エーカー(約十七万八千平方ヘクタール、あるいは四キロ四方強)の用地で一万二千人の労働者が働いていた。この工場にはマンハッタン計画の予算の約四分の一が当てられた。

 

サイクロトロンを大規模に使用して行われるウラニウム235の電磁分離法に関しては、サイクロトロンを世界で初めて考案したローレンスが設備の基本的設計から建設におけるまでの全責任を負った。「Y-12」の暗号名で呼ばれたオークリッジの電磁分離工場には四億二千七百万ドルが充てられ、二百六十八棟の建物の中にローレンスが「カルトロン」と名付け、労働者たちが「競馬場(レーストラック)」と呼んだ巨大な電磁回路を五百基備えていた。ここでは二万四千人が業務に従事していた。

 

一方、ボーアらの視察の対象ではなかったが、アメリカ西海岸ワシントン州のハンフォードでは、ロードアイランド州の約半分に当たる千七百三十二平方キロメーターの工場用地に五百四十棟の建物が立ち並び、十三万二千人の労働者がプルトミウム生成に従事していた。用地内に敷設された鉄道網の総延長は二百キロメーターを越え、建設着工から終戦までに費やされた費用は三億五千八百万ドルだったが、これは二十一世紀初頭の金額に換算すると五十億ドル近い。プルトニウム一グラムを生産するのには二万六千年の歳月を要するだろうと予言したボーアへの挑戦がここでも実行に移されていた。直径十八ミリ、厚さ一・五ミリの十セント硬貨と同じ体積のプルトニウムを生産するために、いまだに二トンの天然ウラニウムを処理しなければならなかったが、それでもハンフォードでは「原子爆弾を製造するためには国中を工場にしなければならない。」と語ったボーアの言葉に従うかのような勢いでプルトニウムの生産が進んでいたlii[1]。

(読書ルーム(105) に続く)

 

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