「オッペンハイマー」 に期待するもの その2

みんなのシネなレビュー(jtnews.up)に掲載された「オッペンハイマー」の配役を見ているうちにまた少し付け足したくなったので書くことにしました。女性の登場人物が少ないのはこの時期に活躍した女性科学者のうちドイツで化学者オットー・ハーンと協力して核分裂を実証したユダヤ系物理学者のリーゼ・マイトナーは中立国スェーデンの国籍を取得して原爆製造に加担することを拒否しました。アルファ線による核分裂の惹起に成功して夫と共にノーベル賞を受賞したキューリー夫人の長女イレーヌ・ジョリオ=キューリーはナチスの占領下で実験施設を守ることに余念がなく、オッペンハイマーの配下に名だたる女性科学者はいなかったようなのですが、本作品の配役には2人の女性が含まれています。一人は名前から分かるようにオッペンハイマーの妻のキティで、この人は植物学者で夫と共に原爆製造拠点のロス・アラモスに引っ越してからは花を咲かせる植物が専門なのにサボテンくらいしか研究対象がなかったのか、家事と子育てだけの生活でフラストに苛まれたそうです。彼女はオッペンハイマーの最初の唯一の妻ですがオッペンハイマーと出会った時は多忙な医師の2人目の夫との婚姻関係にありオッペンハイマーとは今でいうデキ婚でした。そしてキティとの結婚のせいでオッペンハイマーに捨てられた(わけでもない)女性のジーン・タトロックも配役のリストに載っています。派手で肉感的なキティとは異なってジーンは華奢で繊細、キティとの唯一の共通点は知性で彼女は精神科医を目指して勉学に励んでいましたがオッペンハイマーは結婚後も逢う瀬を重ねては時折憂鬱症に陥るジーンの慰め役を務めていましたがオッペンハイマーマンハッタン計画のトップの地位に就くと会う頻度も減り、彼女は自殺してしまいます。そしてその一部始終が戦後の冷戦期に行われたオッペンハイマーの地位継続の可否を巡る公聴会でバラされてしまうという良くないオマケまで生じることになるのです。ネタバレになってしまったかもしれませんがオッペンハイマージーンの関係がどう描かれるのかは見ものです。

 


配役表に名前がある科学者の大物で気になるのは誰でもその名を知っているアインシュタインに科学者四巨頭会議の残りローレンス、コンプトンにフェルミがいます。アインシュタインマンハッタン計画に参加していませんが、これはひとえに彼が有名すぎてかつてチャップリンと対談して新聞にその際の写真が掲載されたりして多くの人々がその風貌を知っていたからではないかと思います。また高齢で英語が不自由(アインシュタインは19世紀の国際語のフランス語とおそらく家族が住んでいたせいでイタリア語が堪能)だったことも理由かもしれません。

 

(その3に続く)