【『プロメテウス達よ』エピローグに代えて】

「天然ウラニウム崩壊の発見から人工核分裂まで(オットー・ハーンのノーベル賞受賞講演)」5/ 7

 

当初観察された放射能と放射性ランタニウムの生成による量の増大は両方のサンプルで観測誤差を考慮した場合同じでしたが、多種のバリウム塩の結晶化によって担体から放射性バリウムを分離することはできませんでした。放射性の生成物と担体は化学的に同一の物質であり、放射性生成物はバリウムに他ならないという結論が出たのです。


一九三九年一月六日付けで私たちが発表した試験結果は、その時までに原子物理学によって知られていた全ての現象に矛盾するものでしたが、発表時点において指標試験はまだ完了しておらず、私たちは試験結果の公表を控えめなものに留めました。しかし、私たちはウラニウム原子核が分裂した後に生成されるもう一つの物質として私たちは原子量が百前後の物質ではないかと考えました。つまり、(私たちが確認した原子量百三十八のバリウムと共に)原子番号四十三番で原子量百一の物質が生じるとすれば原子量の総和はウラニウムと同じ二百三十九になります。計測と原子環の確認が完了した後、私たちの実験結果に誤りがある可能性はさらに低くなりました。


私たちは完了した試験結果と原子環の問題を一九三九年二月十日付けで発表しました。この論文で私たちはトリウム原子核が分裂し、指標試験で確認した内容によれば、それが前回発表したばかりの現象と同様であると記しました。この論文で私は、実験後に不活性ガスとアルカリ金属の存在が確認されたことも記述しました。不活性ガスの性質も特定され、ウラニウムへの放射能照射の過程において気流を用いることによってそのガスを分離したこともその論文において説明しました。


放射性ストロンチウムと放射性イットリウムウラニウムの中から発見されました。ウラニウムからバリウムが生じたことを記載した最初の論文が発表された直後、リーゼ・マイトナーとオットー・R・フリッシュによる論文が初めて発表されましたが、その中で二人は原子量の高い元素の原子核が分裂して二種類の原子量の低い元素に変換し、生成された二種の元素の原子量の和が元の高原子量元素の原子量と一致する可能性について、ニールス・ボーアの原子モデルを参考にしながら述べています。


マイトナーとフリッシュはまた、周期律表に記載された元素の原子量に不整合性があることから、この反応によって極めて高いエネルギーが放出されると推測しています。分裂によって作り出された生成物に互いに反発しあう強いエネルギーがあるということはまずフリッシュによって実験で証明され、次にF.ジョリオによって証明されました。マイトナーとフリッシュはそれまでは超ウラニウム元素であると思われていた分裂によって生じた物質が実際には超ウラニウムではなく分裂によって生じた断片であることを証明しました。またそれらは放射線を当てられたウラニウムから離れても排力のエネルギーを蓄えるというこができました。ヨーロッパとアメリカの原子物理学会はたちまちのうちにして今までに述べた実験を確かめたり、あるいは内容を拡大して実施した結果を発表する論文で溢れ返りました。
この過程は九十二個の陽子によって正に帯電したウラニウム原子核が二つの原子核に分かれることによって進行します(注3)。もし、そのうち一つがバリウムであるとすれば、その原子核には五十六個の陽子が存在し、同時に原子核に三十六個の陽子を持つクリプトンが生成されなければなりません。この二つの物質が擁する陽子の数を足すと(ウラニウム原子番号の)九十二になります。しかしながら、ウラニウムバリウムとクリプトンの安定した同位体の原子量に着目してもわかるように、両者の質量数は共に大きすぎ、すなわち天然のものよりも中性子を多く持っているのです。したがって、両者ともにベータ線を発しながら陽子を多く備えた安定した物質に変わっていかなければならないのです。そして実際に、私たちが後に行った実験は実に多くの不安定な中間生成物を経てこれらが安定した物質に変化していくことを示しました。安定したクリプトンの同位体の中で最も大きい質量数を持つものは質量数八十六ですがウラニウム核分裂の過程では質量数八十八という不安定なクリプトンの同位体が生成されます。


(注3)「核分裂(英語:nuclear fission ドイツ語 = :Kernspaltung、 フランス語:fission nucléaire)」という言葉はマイトナーとフリッシュによって命名されました。


ウラニウム235は高温下で中性子照射によって分裂を起こします。このことはボーアが最初に発見しました。この分裂がウラニウム全体で生じる核分裂の大半を占めています。もしも、クリプトン八十八を生成する以外の反応がないとすれば、クリプトン以外に生成される物質の質量数は二百三十六から八十八を引いた百四十八になります。安定したバリウム同位体の中で最も大きい質量数を持つものは質量数百三十八なので(クリプトンと並んで)生成されるべき物質の質量数はこれよりも十大きいことになります。シュトラスマンと私は、二つ目の論文の中で、核分裂の過程において中性子がどの原子核にもつかずに放出される可能性に触れましたが、このことを初めて実験的に示したのはフレデリック・ジョリオでした。

 

(プロメテウス達よ 〜 原子力開発の物語 「エピローグに替えて」 6/7 に続く)

ノーベル賞財団のサイトに掲載されているオリジナル(英文)

作品の目次

 

オットー・ハーン (ウィキペディア)

『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 エプシロン作戦

Operation Epsilon (Wikipedia)

 

【参考】

リーゼ・マイトナー (ウィキペディア)

 

オットー・フリッシュ (ウィキペディア)

 

フレデリック・ジョリオ=キューリー (ウィキペディア)

 

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