「オッペンハイマー」を見てきました。

「みんなのシネマレビュー」に寄せたわたしのレビュー

トップバッターと2番手の方々に補足して感想と鑑賞の心得をかかせていただきます。 まず、英語圏では今までに千冊を超える原子力原子爆弾開発関連の書籍が発刊されていてそれはあたかも日本で戦国時代から安土桃山時代や幕末についての歴史本が詳細な考証がなされた書籍から歴史的人物の発言などのフィクションを連ねたものまでが読まれている様に似ています。だから本作品中で科学者の誰かの名前が発せられると、書籍や百科事典などで知っているその人の面影に近い登場人物をスクリーン上に探すのが英語圏の鑑賞者なのです。例えばエドワード・テラーですがゲジゲジ眉毛でアクの強い系イケメンのこの人が水爆を巡ってオッペンハイマーと対立するのは冷戦時代になってからでロス・アラモスではテラーは理論計算部の部長に自分ではなくハンス・ベーテが選ばれたことでオッペンハイマーを逆恨みし、水爆開発関連でベーテが 2024年現在唯一のノーベル賞受賞者になっていることもマンハッタン計画の科学者で唯一21世紀まで生きた(2003年没)テラーにとって痛恨の記憶となりました。作品中、キラ星のごとく原子爆弾原子力開発関連でノーベル物理学賞と同化学賞を受賞した科学者のそっくり俳優が登場して名前も出ています。この作品の一つの見方として、理化学事典などに付属しているノーベル賞受賞者と其々の業績を見てできる限り理解しておくとわかりやすくなります。原作の「American Prometheus (邦題: ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者)」も筑摩書房から邦訳が出ているので公立図書館などで購入してもらって一読するといいと思います。わたしは十年ほど前に原書で読んだので人物のフォローに問題はありませんでした。テラーの件がそうですが、本作品では時間軸に沿っていないエピソードが多少あり、また「滝田栄(最近では松本潤)の家康」ように意図的に実在の人物とイメージを変えてもいます。オッペンハイマーの妻のキティと愛人のジーンは容姿もキャラも逆になっていてこれが助演女優賞を受賞出来なかった理由かもしれません。わたしとしては広島に原爆が投下された直後の一般アメリカ人の熱狂に加えてオッペンハイマーの内面の悲しみや葛藤が理解されればこの作品が作られたことと日本で上映されたことに意義があると思います。オッペンハイマーは紛れもなく原爆の父、エドワード・テラーは水爆の父、エンリコ・フェルミ原発の父でわたし的には オッペンハイマー + フェルミ = プロメテウス なのですけれど本作品ではフェルミは顔出しもクレジットも無いような存在だったのが残念でした。でもこれ以上話を複雑にしないためにはまあ仕方ないです。9点

 

「あらすじ」も投稿しました。

原子爆弾開発という理論上は可能だが多くの技術的困難の克服と極端な機密保持を要求されるプロジェクトには多数の科学者と技術者が招聘されたが、そのトップに選ばれて見事に責務を果たした理論物理学者のオッペンハイマーはプロジェクトを辞して研究生活に戻った後、政府の調査委員会に招聘されて情緒不安定だった留学生時代から大学教員の職を得た後に左翼思想に目覚めた経緯や女性関係に至るまでの厳しい尋問を受ける。核兵器拡散を妨げたい政府の意図が尋問の目的だと思われたが、その過程でオッペンハイマーは趣味を共有する自分の広い交友関係の中に複数の共産主義者が存在した事実のみならず、原子爆弾開発によって戦争を終結させて多くの市民や兵士を救ったと賞賛されながらも自分の中に払拭し難い葛藤と忸怩たる思いがあったことに気づいていく。

 

他のレビューワーのコメントは下記URLです。

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=28417&

 

こちらも視聴してみてください。

https://youtu.be/m3UJJ6EjItI?si=arS0zmzZVHV-SFoI

「オッペンハイマー」 に期待するもの その3

次にローレンスですがこの人の科学史上の最大の功績は放射線医療の確立だとわたしは思うのですが、天然ウラニウムの0.7%を占めるウラニウム235の分離(いわゆる濃縮)にも多大な貢献があります。この人のノーベル賞受賞理由は量子加速装置、いわゆるサイクロトロンの発明です。ただこの人は学生時代に台所用品のセールスで学費を稼いでいたせいか、他人の意見やその場の空気にころっと惑わされるきらいがあります。それは長所と言えないことはありませんが、彼が公聴会で親友だったオッペンハイマーを守りきれなかったという生涯の悔いを残してこの世を去る原因にもなったようです。

 


その次はコンプトンですが、絶版になっていたこの人の自伝を米国アマゾンで入手して読んだところ、やはりと言おうか、聞きしに勝る宗教的信念を持った人のようで、それはハーバード大学学長を務めた兄のカールにも共通しているようです。兄弟共に物理学者で兄は敵機・敵船察知の技術であるレーダーを開発し、弟でノーベル賞受賞者のアーサーの方は生涯宇宙線を研究して原爆製造を推進するというよりはシカゴ大学を拠点とした基礎研究の成果から応用に携わる者が参照するべきものを抽出する交通整理の役割を担いました。こう記述すると専守防衛に役立つので兄カールが携わったレーダーの方が兄弟の平和の理念に合致するようですが、いえいえとんでも無い! 三角州から成る平坦な地形の広島市中心部に核爆発による放射性物質が周囲の山を越えずに広島市内に拡散されるようにするには地上何メーターで原爆が炸裂すればいいのかがアラモゴルドの核実験によって計算されていましたが、それを可能にしたのがカール・コンプトンのチームが開発したレーダーだったわけです。平和主義者とは言え、罪つくりな兄弟でした。と言おうかこれは平和と武力という二律背反の永遠の問いの一例でしょうか。

 


最後に配役が記載されていないフェルミがいます。実はこの人は科学者四巨頭の中で唯一生まれも育ちも外国(イタリア)で会議が開かれた時点ではアメリカの市民権を申請中、つまりアメリカでは参政権がない人でした。実はわたしは小学生の頃からこの人を英雄視していますがそれはユダヤ系イタリア人だったこの人の奥さんが英語で書いたフェルミの伝記の日本語訳を読んだことがきっかけでした。フェルミ夫人はまたアメリカに移住して実力を開花させたイタリア系移民のことなどを執筆していますが夫人が書いた家族史によると戦後になるまで夫人は夫がロス・アラモスで担っている役割を具体的には知りませんでしたが、夫が通うマンハッタンのコロンビア大学の通勤圏にある自宅で隣は同じ大学の教授で重水の発見によってノーベル化学賞を受賞したハロルド・ユーリーの家(フェルミ中性子線照射による核分裂の惹起によってノーベル物理学賞を受賞)で夫人同士が子供のことや庭木のことで情報を交換した微笑ましい様子が描かれています。実は、生涯の目標だった核分裂の連鎖反応惹起に成功したフェルミウラニウム235の抽出は不可能だと思っていました。でもヴァネヴァー・ブッシュが政府側に立って主導したマンハッタン計画の一環でハロルド・ユーリーはガスを用いた化学的方法でウラニウムを濃縮するという密命を受け、物理的方法でウラニウム濃縮を指示されていたローレンスと秘密裡にしのぎを削っていてしかも当事者以外は戦後までそのことを知らなかったのだそうです。 まあ、わたしがフェルミを評価するのはフェルミ原子力の商業発電への応用だけに自分の知恵とエネルギーを注いだせいなのですが、彼が天然ウラニウムの僅か0.1%を占める放射性同位元素の核分裂を成功させたことはオッペンハイマーが率いる原子爆弾のチームに成功の確信を与え、大掛かりなウラニウム濃縮、プルトニウム生成などに拍車がかかりました。その結果はアメリカに帰化したフェルミナチスドイツの下で原子力開発に取り組んだゲッチンゲン大学でのフェルミの同期ハイゼンベルクの両者にとって残酷なものでした。 ハイゼンベルクについて言えば、彼は原子力発電の可能性にフェルミと共に大きな夢を抱いていましたが、第二次世界大戦勃発によってフェルミとの情報交換ができなくなった後、原子力大量破壊兵器に応用できることを知る同僚科学者にはその可能性をナチス政府には明かさないように(あるいは可能性はあってもウラニウム濃縮は非常に困難だとしか語らなかったのかもしれませんが)、予算は直ぐに実現可能な兵器開発に充てられる戦時下の厳しい状況で研究を続けました。

 


明日は「オッペンハイマー」の日本での公開の日ですが、わたしが住む関東では天気が悪いので行こうかどうしようかと思っています。

「オッペンハイマー」 に期待するもの その2

みんなのシネなレビュー(jtnews.up)に掲載された「オッペンハイマー」の配役を見ているうちにまた少し付け足したくなったので書くことにしました。女性の登場人物が少ないのはこの時期に活躍した女性科学者のうちドイツで化学者オットー・ハーンと協力して核分裂を実証したユダヤ系物理学者のリーゼ・マイトナーは中立国スェーデンの国籍を取得して原爆製造に加担することを拒否しました。アルファ線による核分裂の惹起に成功して夫と共にノーベル賞を受賞したキューリー夫人の長女イレーヌ・ジョリオ=キューリーはナチスの占領下で実験施設を守ることに余念がなく、オッペンハイマーの配下に名だたる女性科学者はいなかったようなのですが、本作品の配役には2人の女性が含まれています。一人は名前から分かるようにオッペンハイマーの妻のキティで、この人は植物学者で夫と共に原爆製造拠点のロス・アラモスに引っ越してからは花を咲かせる植物が専門なのにサボテンくらいしか研究対象がなかったのか、家事と子育てだけの生活でフラストに苛まれたそうです。彼女はオッペンハイマーの最初の唯一の妻ですがオッペンハイマーと出会った時は多忙な医師の2人目の夫との婚姻関係にありオッペンハイマーとは今でいうデキ婚でした。そしてキティとの結婚のせいでオッペンハイマーに捨てられた(わけでもない)女性のジーン・タトロックも配役のリストに載っています。派手で肉感的なキティとは異なってジーンは華奢で繊細、キティとの唯一の共通点は知性で彼女は精神科医を目指して勉学に励んでいましたがオッペンハイマーは結婚後も逢う瀬を重ねては時折憂鬱症に陥るジーンの慰め役を務めていましたがオッペンハイマーマンハッタン計画のトップの地位に就くと会う頻度も減り、彼女は自殺してしまいます。そしてその一部始終が戦後の冷戦期に行われたオッペンハイマーの地位継続の可否を巡る公聴会でバラされてしまうという良くないオマケまで生じることになるのです。ネタバレになってしまったかもしれませんがオッペンハイマージーンの関係がどう描かれるのかは見ものです。

 


配役表に名前がある科学者の大物で気になるのは誰でもその名を知っているアインシュタインに科学者四巨頭会議の残りローレンス、コンプトンにフェルミがいます。アインシュタインマンハッタン計画に参加していませんが、これはひとえに彼が有名すぎてかつてチャップリンと対談して新聞にその際の写真が掲載されたりして多くの人々がその風貌を知っていたからではないかと思います。また高齢で英語が不自由(アインシュタインは19世紀の国際語のフランス語とおそらく家族が住んでいたせいでイタリア語が堪能)だったことも理由かもしれません。

 

(その3に続く)

「オッペンハイマー」 に期待するもの その1

 

ゴジラ ー0.1」のコメントで科学者四巨頭の名前を出しましたが4人の中でフェルミとコンプトンを演じた俳優の名前が上記の「みんなのシネマレビュー」の「オッペンハイマー」のページにもIMDBの同作品のページにも掲載されていないのですね。ということはこの科学者四巨頭会議はあまり大きくは取り上げられなかったようですが極秘裏に行われたこの会議は世界で唯一の被爆国である日本の国民と科学と生命、そして大量破壊兵器や戦争に関心がある世界中の良心のある人々にとって非常に興味深い視点を提供してくれるものだったようです。つまり会議の当初から「戦争は悪であり、1分1秒でも早く戦争を終わらせるためには日本への原子爆弾投下はやむを得ない。」と主張したコンプトンと医師である弟と共同で放射線医療を確立したローレンスの人間生命の絶対的価値を論拠にした反論が真っ向から対立し、2人の議論を黙って聞いていたフェルミが科学の成果は破壊と殺戮には決して使われてはいないと主張するに至って結論が出なくなってしまいました。日本人の1人であるわたしとしては2対1(ローレンス+フェルミvsコンプトン) で原爆の日本投下は否決なんじゃないかと思うのですが、まあこのシーンは作品中では良くてダイジェストしか期待出来ないようです。

 

この作品はオッペンハイマーの成功と凋落を描いたものだそうですがローレンスとエドワード・テラーを演じる俳優さんの名前が出ているということは原爆開発でのオッペンハイマーの役割を水爆開発で演じたエドワード・テラーとオッペンハイマーの友情と憎悪の物語は描かれていそうです。二人は世界大戦以前から同じ専門である理論物理学だけではなく一緒にカフェに入り浸って文学を論じる趣味も共通だった親友同士でしたがテラーは原爆開発でオッペンハイマーが自分の得意分野の部署のトップに別の科学者を任命し、さらに戦後、オッペンハイマーが水爆開発に反対したことから友情余って憎さ百倍という状態になって公聴会でドロドロの批難劇を演じることになるんです。エドワード・テラーの人と成りについては大変長いタイトルですが「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」というブラックユーモア作品で描かれています。その他のめぼしい科学者ではローレンスとニールス・ボーアの配役が記されていますがニールス・ボーア役がケネス・ブラナーというのは「えっ!!??」というのが感想です。なぜかというとケネス・ブラナーはキレキレの印象がある俳優さんでかたやニールス・ボーアは芒洋とした趣の人だったようでそれは残されているボーアの写真からもわかります。わたしとしては「Copengagen」でニールス・ボーアを演じたステファン・レイの方が合っています。なお「Copengagen」は登場人物がたった3人の非常に完成度が高い演劇作品で、この中で「007」でお馴染みになったダニエル・クレイグナチスドイツの御用科学者(物理学)のハイゼンベルクを演じていて、こちらもピッタリです。わたしはこの作品に感銘を受けて制作したPBSハリウッド社に「日本のテレビ局で放送できるようにしてください。」と直訴したのですが「むにゃむにゃ⋯。」とかわされてしまいました。どうやら原作者が「何語であろうが聴覚障害者向けであろうが字幕をつけてはダメ!  吹き替えはもっとダメ!」と頑張っているらしいです。

 

その他、行政側に名優の配役が目立ちます。マット・デーモンが科学者たちと政府のパイプ役を勤めたレズリー・グローブスでトルーマン大統領やヴァネヴァー・ブッシュの配役も記載されているということは行政側を結構描いているらしいですがわたし自身はあまり興味無いです。ただクリント・イーストウッドが監督を勤めた「父親たちの星条旗」に描かれているような涙ぐましい努力によってアメリカ政府は科学者たちの旺盛な資金要求に答えようとしたこととその根底には政府と科学者に共通するナチスドイツに対する恐れがあったことは記憶に留めるべきでしょう。ナチスドイツは狂人ヒトラーに統治され第二次世界大戦開戦直後に高純度のウラニウム鉱山のあるチェコスロバキアを、しばらくして植民地のコンゴウラニウム鉱山を持つベルギーを手中に収め、若干32歳でノーベル物理学賞を受賞した熱烈な愛国者ハイゼンベルクアメリカの複数の大学の招聘に応じずにドイツに居残っていました。実は、英米の科学者たちは日本の湯川秀樹仁科芳雄も評価していましたが、第二次世界大戦中に日本にはウラニウム鉱山が無いと思われていました。今では鳥取県人形峠に小規模のウラニウム鉱山があるとわたしたちは日本地理の授業で教わりますが、実は第二次世界大戦末期に日本の領土内で人形峠以外のウラニウム鉱山が発見されたのです。それは日本領だった朝鮮半島の北部、現在の北朝鮮でした。この発見のニュースがアメリカが広島・長崎に原子爆弾を投下する判断の引き金になったかもしれないというのは面白い仮説で今後明らかになるかもしれません。それからおそらくトレーラーに使われるシーンではないかと思いますが、NHKクリストファー・ノーラン監督へのインタビュー番組で劇中のある科学者がオッペンハイマー大量破壊兵器製造の意義を尋ね、オッペンハイマーは「ナチスドイツに勝つためにはやるしかない。」と答えていました。アメリカ政府内部で日本に対しても同じ恐怖心を持った可能性もあるのです。わたしは拙著「プロメテウス達よ」で英米の科学者に恐れられた日独の理論物理学者、湯川秀樹ハイゼンベルクのその後についても触れました。長らく個人的な理由で電子出版に取り掛かれなかったのですがこれからなんとか形にしていくつもりです。

「ゴジラー0.1」と「オッペンハイマー」 

先週末に「ゴジラー0.1」を見てきました。本来「ゴジラー0.1」の感想は本来わたしの映画評ブログに書き込むべきですが中でオッペンハイマーに言及している箇所があるのでこちらとのダブル掲載とし、さらに3月29日日本公開予定で本年のアカデミー賞受賞作「オッペンハイマー」の見どころ予想をこちらに色々書き込んでみたいと思います・

 

Part I  「ゴジラ ー0.1」… 「みんなのシネマレビュー」からの転載  

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=28131

正論を吐く理系官僚ということで財務省をいびり出されたインフルエンサーの某氏が「既に4回見たがまだ何回か見るつもり」と言ったので怪獣映画は子供の頃から嫌いでしたが見に行きました。主演はNHK の朝ドラで植物学者の役をやった神木くんじゃないですか。途中でゴジラは今まで日本の国土と国民を脅かした地震、台風、津波、B29(空襲)、原爆におまけの蒙古襲来を全部足したもののアレゴリー(比喩)じゃないのかと気づいてからは「ゴジラを倒すのがウルトラマンだったりしたらわたしは出口で観覧料の返金を要求するぞ!」と息巻きましたが幸いにしてそんなこともなく最後は国土を襲うどんな災難もゴジラの姿に結晶させて科学技術とチームワークで立ち向かい、決して他国のせいにしたりはしない、ましてや十倍返しにしたりしない日本人の賢さと優しさに感涙しました。さて、日本は第二次世界大戦の終盤で英米の科学者がナチスドイツを倒すために製造した原子爆弾の被害を被りましたが原爆製造で功績のあった科学者四巨頭(オッペンハイマーフェルミ、ローレンス、コンプトン)の原子爆弾を日本に投下すべきか否かの議論には結論が出ず、議長のオッペンハイマーは「わたし達4人の科学者はそれぞれ一票の投票権を持つ市民でしかありません!」と結論を放棄してしまいました。では誰が広島・長崎の原爆投下を決めたかというと時のトルーマン大統領だと言うのは簡単ですがトルーマンに復讐することはできないし、トルーマンを大統領に選んだアメリカ人に十倍返しをするのは憎悪の連鎖を生むだけだし⋯結局ゴジラにしてしまった方が全て平和裡におさまるわけです。日本の周囲には大きな大陸国と小さな半島国が何をしでかすかわからない状態にありますが、これから何が起きてもゴジラを倒すつもりで対処できればと思います。

オッペンハイマー」 その1に続く

 

 

祝 「オッペンハイマー」受賞

複数のノーベル賞受賞者部会に従えて科学技術の水準に於いて世界に冠たる国家であると信じられていたナチスドイツの原子力利用と核兵器開発に成功する可能性に怯えながらロスアラモス研究所と全米に点在した基礎技術と関連技術の開発拠点で仕事に従事した何千人もの科学者と技術者を原子爆弾の完成に向けてまとめ上げたロバート・J.・オッペンハイマーが終にノーベル賞を受賞したわけではありません。今回受賞の対象となったのは科学者オッペンハイマーを主人公とする同名の映画作品〔クリストファー・ノーラン監督、キリアン・マーフィ主演)が世界最高峰の映画賞であるアカデミー賞の作品賞および主演男優賞、助演女優賞、監督賞など、ノミネートされた賞を全部受賞したわけではないにせよ、これだけ取れば「総なめ」に近いのではないかと思われる結果を映画史上に刻みました。日本で封切られるのは今月29日ですが既にわくわくしています。

 

出演者の中では大学院で科学(建築)を学んだ知的軍人でセキュリティ面や予算を牛耳ったレズリー・グローブ准将を演じるマット・デイモン原子核モデルでノーベル賞を受賞して若手科学者に父親のように慕われていたデンマーク人科学者のニールス・ボーアをイギリス人シェイクスピア俳優のケネス・ブラナーが演じるのが気になります。にーる・ボーアは後輩科学者やオッペンハイマーとはドイツ語で意思疎通をし、英語がすごく下手だったんですけれどね。アインシュタイン役は誰がやろうが本人に個性ありすぎなので絶対に識別できるようなメイクをしているはずですがこの人も英語はからきしダメでドイツ語とフランス語で喋っていたはずです。

 

何はともあれ、わたしのこのブログに切り貼りしてある「プロメテウス達よ ーー 原子力開発の物語」はこれからの電子出版と紙版出版を見据えて反響を探るためのものであり、今に至るまでにそれなりの手応えを得ていますがまだどちらの出版にも至っていません。書籍も本もそれなりの長所と短所がそれぞれあるわけですが、わたしとしては映画は各登場人物を深く理解する俳優が声や表情などでもって視聴者の視覚と聴覚に迫るのに対し、書籍は背景の説明などを含めて重層的に事象を読者の前に展開することができるという利点を持っているので互いに補完することが出来ると考えています。また本ブログとこれから出版する電子版では読者が適宜ウィキペでイアへ飛ぶことによって登場人物の風貌や、特に科学者の場合、より詳細な業績を理解できるようにしています。

 

みなさん、今月29日にこの映画が封切られたら是非鑑賞して、またこのブログも活用していただいて原子力核兵器についての理解やご自身の考え方を深めてください。

NHKスペシャル

死の商人」だったかもしれないベルギー人サンジェについての番組を見ました。番組で欠けていた視点はサンジェの故国ベルギーが、少なくともサンジェがウラン販売で利益を挙げた時点においては、ナチスドイツに侵攻されてひとたまりもなく白旗を掲げるしかなかった小国でサンジェの行動の動機にアメリカによる庇護をなんとか得たいという愛国心があったことを無視することができないということです。また、ナチスドイツがミサイル開発に注力し、核開発に回す予算が取れなかったというまことしやかな否定不可能な当てずっぽうも問題でした。事実は、ハイゼンベルクやハーンといった優秀なドイツの科学者らは核兵器開発の可能性をナチス政府に黙っていたのです。一方で彼らは原子力発電を成功させようという意欲と野心は充分に持っていました。まあ彼らが核兵器開発の可能性について口をつぐんだ理由はひとつにはヒトラーのような気狂いに新たな強力なハモノを持たせてはいけないということ以外にウランの中にたった0・7%しか含まれず化学的に分離することが出来ないウラニウム235の分離が実際的ではないという思いもあったでしょう。但し、ドイツはウランを手に入れるためにコンゴに貨物船を送る必要はなく、ドイツ占領下のチェコスロバキアにウラン含有量が十分高いウラン鉱山がありました。こういった事実も複合的に捉えられておらず、ドイツ降伏の過程も端折られて短絡的に日本が標的にされていた感が否めませんでした。