【『プロメテウス達よ』エピローグに代えて】

「天然ウラニウム崩壊の発見から人工核分裂まで(オットー・ハーンのノーベル賞受賞講演)」7/7

 

この正真正銘の原子番号九十三番の超ウラニウム元素はベータ線を発するので、それは超ウラニウム元素よりもさらに原子番号の高い原子番号九十四番の元素に変化していくと結論づけられました。この物質は半減期二万四千年という極めて長い半減期を持ち、アルファ線を発生します。アメリカ人科学者のシーボーグはこの物質をプルトニウム原子番号九十三番の物質をネプテュニウムと名付けました。


原子番号九十三番の元素の同位体も生成されました。同位体ウラニウム二三八から別の方法によって生成されました。つまり、n,・2n 法と呼ばれる、高エネルギーの中性子によって生成されました。ウラニウム原子核を通過する一つの中性子を別のウラニウム原子の原子核に当てるのがこの方法です。その結果としてアルファ線ベータ線を発するウラニウム同位体ウラニウム237が生成されました。この同位体半減期が数百万年のネプテュニウムの同位体に変化していきます。


以上からわかるとおり、ウラニウム中性子を異なった速度で照射した場合に生じる物質は多岐にわたり、その過程は非常に複雑です。粒子照射の過程で他の反応とは無関係に、実験者の意図とも関係なく生じる核分裂に加えて、次のような結果が生じます。
(1)原子番号三十番から六十四番に至るまでの全ての元素を生成する核分裂
(2)核分裂の過程において、核分裂の連鎖反応を誘発する余剰の中性子が放出されること。
(3)「共鳴」と呼ばれる現象によって、あるエネルギー水準の中性子ウラニウム二三八に吸収され、ネプテュニウムやプルトニウムに変化していくウラニウム二三九が生成されること。
(4)ウラニウム二三八が余剰中性子を放出することによってウラニウム237とウラニウム235が生成され、これらからネプテュニウムの同位体が生成されること。
(1)の過程において、速度の遅い(高温の)中性子ウラニウムの中でも含有量が低い同位体のみに働きかけます。共鳴法によって高温・高速となる以前の中性子ウラニウムに吸収させる(3)の過程は(1)の過程と対になるものです。


ウラニウム中性子を吸収させないようにして核分裂の連鎖反応を可能にするかどうかは実験技術にかかっています。一方で、中性子を過剰に発生させる(2)の過程は共鳴を引き起こし、ひいてはプルトニウムを発生させます。もし、原子炉と呼ばれる大規模な設備内で連鎖反応がうまく制御されてプルトニウムが十分に得られれば、そしてプルトニウムウラニウムから分離されるならば、プルトニウム核分裂の連鎖反応を起こします。ウラニウム235においては連鎖反応を阻害する共鳴過程が生じないので、ウラニウム235も同位体であるウラニウム二三八からの分離に関してもプルトニウムと同じことが言えます。

 

ウラニウム235とプルトニウムの両物質は共にアメリカ合衆国で生成され、広島と長崎に投下さたれた原子爆弾の製造という結末をもたらしました。

 

 

(プロメテウス達よ 〜 原子力開発の物語 「前書き」 に続く)

 

【参考】

グレン・シーボーグ (ウィキペディア)

 

ネプテュニウム(ネプツニウム) (ウィキペディア)

プルトニウム (ウィキペディア)

 

 

ノーベル賞財団のサイトに掲載されているオリジナル(英文)  同講演の上記記録の11ページから13ページには同位体を系統的に整理した表が掲載されているので化学の知識が多少なりともある方には是非閲覧をお勧めします。

 

作品の目次

 

作品の大トリにオットー・ハーンを選んだ理由

オットー・ハーン (ウィキペディア)

『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 エプシロン作戦

Operation Epsilon (Wikipedia)

 

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