【読書ルーム(102) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜 新たな段階とボーアの参加 2/8  】  作品の目次

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【あらすじ】

その頃レズリー・グローブス准将の頭を占めていたことはシカゴ大学フェルミのチームが核エネルギーの開放と制御に成功したことを受け、プロジェクトの目標を自分の得意分野である兵器製造に照準を合わせてその拠点や員配置を改変することだった。かくしてプロジェクトは基礎部分を担うシカゴ大学(責任者:コンプトン)、ウラニウム235の分離の拠点は電力の供給が容易なテネシー州オークリッジ(責任者は物理的方法はローレンス、化学的方法はユーリー)、プルトニウム生成と分離の拠点はワシントン州ハンフォード(責任者は民間委託でデュポン社):、そして最終的な原子爆弾製造拠点はニューメキシコ州ロスアラモスという体制が構築された。特にロスアラモスでは最も厳格な機密保持体制が敷かれ、プロジェクトの科学技術部門の長たるオッペンハイマーが常駐することになった。

 

【本文】

その頃、グローブスの頭の中を占めていたことは、原子力開発関連のその他の開発や製造に関して大学構内よりも新たな別の場所で実施するほうが適当なものは何であり、どこに場所を探して移動させるかということだった。

 

ウラニウム235の分離に関してグローブスは、九月下旬から十月初旬に渡る視察旅行の後でウェスティングハウス社による遠心分離法だけは実現可能性が低いとして連邦予算を使っての開発推進を断念させることにした。しかし、コロンビア大学のユーリーが研究を進めているガス噴射法とカリフォルニア州立大学バークレー校でローレンスがサイクロトロンを使って取り組んでいる電磁分離法はどちらも捨てがたかった。グローブスはどちらかが失敗に終わる可能性を考慮し、両方を並行して進めさせることに決め、また二人のノーベル賞受賞者にそれぞれの面子をかけた競争をさせることによってより早い段階でのウラニウム235の分離が可能になることを期待した。そこで、グローブスは互いに協力関係はないユーリーとローレンスの二人を同じ場所に移すことにした。グローブスはその場所としてコンプトンとローレンスが提案した通り、テネシー峡谷の水力発電所からの送電が容易で電力をふんだんに使用することができるテネシー州オークリッジを選んだ。

 

シーボーグがすでに生成と分離方法を確かめているプルトニウムの生成・分離にも予算を充てて工場を設けることにした。研究意欲が盛んな若いシーボーグにはすでに方法が確立しているプルトニウムの生成や分離を監督させるよりもシカゴ大学に残して原子力開発に関する新たな何か別の可能性を追求させたほうがいいとグローブスは考え、プルトニウム生成は化学会社に請け負わせることにした。様々な化学会社が擁している科学者や技術力を比較した上でデュポン社にプルトニウム分離を請け負わせることに決し、アメリカ西海岸ワシントン州のハンフォードにプルトニウム生成・分離工場が建設されることになった。

 

アメリカの世界大戦参戦で開けた一九四二年はこうして、年が押し詰まった十二月にフェルミ核分裂の連鎖反応惹起に成功して将来の展望を開いたことを除けば、原子力開発の準備に明け暮れ、戦線においてはヨーロッパと太平洋の両方において膠着状態、あるいはドイツを中心とする枢軸国側の多少の優位で戦況が展開した。

 

一九四三年になり、ニュー・メキシコ州ロス・アラモス、テネシー州オークリッジ、ワシントン州ハンフォードでは工場建設の準備が着々と進み、科学者や技術者が居住する住宅も整備され、オッペンンハイマーは三月半ばにロス・アラモスに赴いて砂漠の厳寒の中で進められた工場や研究所施設の建設状況を確認し、妻子を呼び寄せるまでの仮住居に落ち着いた。四月になるとオッペンハイマーは科学者の会議を招集し、夏までには第一陣としてロス・アラモスに転居する科学者の顔ぶれが決定した。マンハッタン計画の水先案内人(パイロット)となったフェルミはしばらくの間シカゴに留まって核分裂の連鎖反応の効率を更に高めるための追加的な実験などを行うことになった。フェルミは建設労働者のストライキのせいで世界初の原子炉を建設することができなくなったシカゴ郊外のアルゴンの用地を予定通りに世界で二番目となる原子炉を建設し、その稼動を安定させてからロス・アラモスに移ることになった。原子力開発に急を要したためにシカゴ大学の屋内球戯場に原子炉を建設せざるを得なかったが、平和が訪れた後も球戯場に原子炉を残すわけにもいかなかった。フェルミは平和が再び訪れた後、アルゴンの原子力研究所が原子力開発の世界における中心地となり、世界中の科学者や技術者が集って人類に新しくもたらされたエネルギー源である核エネルギーのさらなる有効利用を追求し、また後進を養成したりする場となることを夢見ていた。フェルミは機能を向上させたアルゴンの第二号原子炉からシカゴ大学の屋内球戯場に建設された第一号原子炉の十万倍の出力を得ることに成功したが、その後一九四四年の夏に一家を挙げてシカゴを去り、ロス・アラモスで原子爆弾開発に対して自由な技術的助言をする立場に就くことになる。

(読書ルーム(103) に続く)

 

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