【読書ルーム(103) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜 新たな段階とボーアの参加 3/8 】  作品の目次

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【あらすじ】

マンハッタン計画に参加した科学者達はほとんどがアメリカ国籍か外国出身で米国籍の取得者、フェルミのように敵国出身で帰化申請中にもかかわらず実力と功績が認められた者もいたが、加えてナチスドイツによる連日の空襲に脅かされていた友好国のイギリスから出向してきている科学者もいた。1943年にイギリス諜報部が威信をかけてニールス・ボーアナチスドイツに蹂躙されたデンマークから救出するとニールス・ボーアとその息子のアーゲ・ボーアは敵国の国籍を保持しながらマンハッタン計画に多大な貢献をすることになった。

 

【本文】

一九四三年の夏、ニールス・ボーアナチス占領下のコペンハーゲンから脱出したという知らせを受けるとプロジェクトに参加していた科学者たちは沸き立った。ナチス・ドイツ占領下のデンマークユダヤ人の血を引くボーアがナチス原子爆弾開発計画に協力するはずは元よりなかったが、アインシュタインと並ぶ理論物理学の双璧ボーアが連合国側で自由に研究を行ったり意見を述べたりできるようになったのである。

 

ボーアは同年の初秋にイギリスに到着し、中性子の発見によってノーベル賞を受賞したチャドィックからイギリスとアメリカで進められている原子力開発計画の概要に関して詳細な説明を受けた。ボーアはその時まで、ウラニウム235に替わる原子力源として有望視される人造元素プルトニウムが生成されたということを知らなかった。

 

チャドウィックを始めとするイギリスの科学者たちは当然のことながら、ハイゼンベルクやフォン・ワイゼッカーらと接触があったボーアからドイツの原子力開発計画に関する何らかの情報を期待した。しかし、婉曲に尋ねてみてもボーアは何も答えなかいばかりか、イギリス人の科学者がボーアの前でドイツの原子力開発計画に触れただけでボーアは不快感を露にし、イギリス人の科学者らはボーアからこの件に関して情報を得ることは諦めた。

 

チャドウィックらによって進行中の原子力開発経過に関して十分な理解を得た後、同じ年の十二月にボーアはすでにイギリスに逃避し、一人前の物理学者に成長している息子アーゲと共に、チャドィックを団長とする視察団に加わってアメリカの原子力開発計画を訪れることになった。

 

イギリスの原子力開発の弱点は、狭い島国の国土の中で付近の住民に放射能の被害を与えずにすむよ
うな、廃棄物の処理施設などを含めた大掛かりな施設を建設することができず、研究の中心のイギリス本土と施設のあるカナダとに分かれて原子力開発を進めなければならないということだった。従って、一九四一年の暮れにアメリカが参戦して後はイギリスは研究成果をアメリカに供与し、施設に関してはアメリカに頼るという米英の協力体制が確立されていた。

 

四年前と同様、ニューヨークの港に到着したボーアはチャドウィックらと共に首都ワシントンDCや原子爆弾開発の各拠点などを訪れる忙しい日程を開始した。

 

ニューヨークに到着した直後から、嫌がる本人の意向を無視して、FBIの腕利きの職員を含む六人のシークレット・サービスが常にボーアに付き添うことになった。その頃、連合軍はすでにイタリア全土を掌握していたが、マンハッタン計画の一環としてドイツの原子力開発計画の進行状況を把握し、可能ならば頓挫させるための諜報活動が中立国スイスを拠点として展開されていた。その活動目標の中にはドイツ原子力開発計画の最高責任者であるハイゼンベルクの拉致も含まれていたが、このことを知るレズリー・グローブスらマンハッタン計画の幹部はナチス・ドイツはどのような手段を使ってもニールス・ボーアを奪い返すか、最悪の場合、ボーアを殺害してまも連合国側がボアの頭脳を手中にすることを阻止するに違いないと考えたのである。もちろん、プロジェクトに参加している世界一線級の科学者たち、オッペンハイマーフェルミ、コンプトン、ローレンスらはいずれも連合国側とってなくてはならない存在だったがボーアは彼らとは一線を画していた。ボーアはドイツ原子力開発計画の中枢に位置するハイゼンベルクやフォン・ワイゼッカーの師であり、つい最近まで彼らと頻繁な交流があったのである。

(読書ルーム(104) に続く)

 

【参考】

ニールス・ボーア (ウィキペディア)

アーゲ・ボーア または オーゲ・ニールス・ボーア (ウィキペディア)

ジェームズ・チャドウィック (ウィキペディア)

 

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