【読書ルーム(27) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【 『プロメテウス』第1章  プロメテウスの揺籃の地 21/27. 〜 ハイゼンベルクの青年時代〜 同年代の天才】  作品の目次

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【本文】

一九二六年半ば、英仏海峡をはさんだイギリスのケンブリッジ大学から、スイス人を父としてイギリスで生まれ育ったポール・ディラックコペンハーゲンのボーアの研究所に到着した。幼少の頃からフランス語教師の父から英仏二ヶ国語を同等に喋ることを強制され、その上に天才数学者となることまで期待されたディラックは控えめな態度の引っ込み思案な青年だったが、ボーアや一歳年上のハイゼンベルクとは物理学を通じて固い友情を築くことができた。一九二六年秋、マックス・ボルンと共にシュレジンガーの波動理論に鋭い疑問を投げかけていたボーアはシュレジンンガーをコペンハーゲンに招いて連日議論を挑んだが、若いハイゼンベルクハイゼンベルクより一つ年下のディラックは先輩格である二人の論争に耳を傾け、母国語は異なりながらも共通の言語である数学を用いて解釈を重ねたと思われる。そしてその年の暮れ、ハイゼンベルクに先立ってディラックは大胆な論文を発表したのである。

 

ディラックが一九二六年十二月二日付のイギリスの科学雑誌に発表した理論はハイゼンベルクの理論とは異なって行列式を使わずに構築されていた。ディラックのこの理論は、ゲッチンゲン大学代数学ヒルベルトの数学理論を駆使して既存のド・ブロイやシュレジンガーの理論を破綻なく説明し、相対性理論とも矛盾せず、水素のスペクトルに観察された今まで説明のつかなかった現象までも完璧に説明したが、そればかりではなかった。ディラックの説が正しいならば、プラスの電気を帯びて物質の質量を決定する原子核とマイナスの電気を帯びて質量の上ではほとんど問題にならない電子の他に自然界にはプラスの電気を帯びて質量が無視できるほど小さい陽電子なるものが存在することになるのである。

 

ハイゼンベルクも負けてはいられなかった。ニールス・ボーアディラックに遅れまいとして自らの考えに磨きをかけるハイゼンベルクのさらなる思考と探求を鼓舞し、またある時には考え方の不備をつくことによって熟考を促した。しかし、ハイゼンベルクが終に極小の世界中を捕らえるためのある考え方に逢着したのはボーアがノルウェーにスキー旅行に出かけた一九二七年の二月ことだった。

(読書ルーム(28) に続く)

 

【参考】

ポール・ディラック (ウィキペディア)

 

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