【読書ルーム(30) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【 『プロメテウス』第1章  プロメテウスの揺籃の地 24/27. 〜 ハイゼンベルクの青年時代〜 不確定性理論へ】  作品の目次

この記事の内容全ての著作権はかわまりに帰属します。  

 

【本文】

一行が帰国の途に就くのと前後し、アメリカの株式市場の大暴落に端を発し、世界は未曾有の大恐慌に突入した。ハイゼンベルクが不確定性理論の構築とその精緻化に没頭していた間、ドイツ経済は比較的安定し、一九二十年代初めには失業して職にあぶれていた人々が復職した。政治にもビジネスにもうといハイゼンベルクやその他の象牙の塔にこもる自然科学者らは。ドイツの復興はドイツ国民の勤勉だけの賜物であると単純に信じ、それ以上を懸念することはなかった。彼らの楽天的な思い込みは一面では正しかったのであるが、実際には一九二十年代、特に一九二三年のデノミネーション以降にドイツが成し遂げた復興は、ドイツ固有の社会資本や勤勉な国民性などを信頼して流入した外国資本が機能した結果だったのである。しかし、今やアメリカなど、ドイツに対して投融資を盛んに行った国々は自国経済を支えるのに精一杯の状況に陥り、対ドイツの投資を引き上げ、融資を打ち切った。通貨不安が再燃し、資金源を失って閉鎖せざるを得なくなった工場などから失業者が街に溢れ出た。

 

翌一九三十年、ヴェルナー・ハイゼンベルクの父オーガストハイゼンベルクギリシアで行われた学会に赴き、その地でヴェルナーが少年時代に罹患し、ヴェルナーの自然科学に対する情熱を決定的にしたのと同じ病のチフスに罹って亡くなった。ヴェルナー・ハイゼンベルクは名実共に一人前の大人、そして科学者として生きていかなければならなくなった。

 

ハイゼンンベルグが提唱した不確定性理論は思わぬ波紋を物理学界に投げかけた。相対性理論を確立した後、今や一般力学と電磁力学の統一、いわゆる場の理論の統一に全霊を打ち込んでいたアインシュタインがその意味を鋭く問いただしたのである。アインシュタインの好敵手であるニールス・ボーアはそのころあたかも、コペンハーゲンという巣でこれから大きく成長していこうとするパウリ、ハイゼンベルクディラックなどの新鋭の理論物理学者たちを翼の下に庇護する親鳥のような役割を担っていたが、それに対してアインシュタインは、わが子を千尋の谷につき落とす獅子の親に倣い、物理学の将来のためにボーアの庇護の下にいる若い理論物理学者たちに猛攻を加えようとした。その第一の標的としてアインシュタインハイゼンベルクを選んだのである。

ハイゼンベルクは一体、何を言いたいのだ。」

(読書ルーム(31) に続く)

 

【お知らせ】

下の画像は作りかけの本作品電子版の表紙です。出版社はお任せ出版社のアマゾン(Amazon International Services)です。ということは今のところアマゾン専用の電子ブックリーダーのキンドルのみで講読が可能だということです。こちらはそれほど高額ではありませんが有料となります。キンドル版には次のような優れた点があります。

・ 縦書き表示であること

・ 文字の大きさを変えられ、また字体を変えたり太字にしたりできること

さらにキンドルは数百冊以上の書籍を入れることができ、重量は文庫本並みです。アマゾンはお任せ出版社なので内容や誤字脱字などには自分で責任を持たないといけませんが精一杯努力する所存です。(予想価格:700円 要キンドル)

 

f:id:kawamari7:20211231174510j:image