【読書ルーム(4) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』プロローグ 4/6 〜 アインシュタインと第一次世界大戦】   作品の目次

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【あらすじ】

第一次世界大戦の勃発によってアインシュタイン相対性理論実証の機会を奪われ、狭量な同僚科学者らが極端な愛国主義に傾倒していく現実に向き合わされる。アインシュタインは胸襟を開くことのできる同僚と共に偏狭な考え方を正して戦争に反対する声明を発表するが効果はなく、追い討ちをかけるように妻が去って精神的打撃を受ける。

 

【本文】

理論を証明する機会が失われたことに加えてアインシュタインにはさらなる試練が待ち受けていた。それは、バルカン半島での権益争いに端を発し、オーストリアがロシアに対してことを構えて始まったこの戦争の大義名分を明らかにしようと、ドイツの名だたる知識人約百名がゲルマン民族の優秀性を説き、有色民族との融和を図ろうとする三国協商側諸国をあからさまに非難する目的で「文明国家に対する宣言文(マニフェスト)」なる文章を起草し、アインシュタインが尊敬していた何人かの物理学者もこの宣言に署名したのである。これに対してアインシュタインが平和主義者の友人と共に編んだ「反宣言文(カウンター・マニフェスト)」は発起人を入れて四名の署名しか集めることができなかった。

 

​同僚の物理学者たちがドイツ民族の優位性を鼓吹する狂信的な宣言文にこぞって署名したという衝撃的な事実に加えて、私生活においてもアインシュタインには暗雲がたれこめた。学生時代に知り合い、物理学に対する共通の情熱によって結ばれた妻ミレーバが突然、二人の息子を連れて住み慣れたスイスに去ってしまったのである。元より容姿でアインシュタインを惹きつけたわけではない、足の悪いセルビア人のミレーバは物理学に対する興味を失い、生活に疲れ、理論構築に没頭したかと思うと講演などで家を空けて家庭をないがしろにしがちな夫に愛想をつかしていた。また、ゲルマン文化の粋を誇る華やかなドイツの首都ベルリンにバルカン半島出身のセルビア人として滞在することもバルカン半島をめぐって戦争が起きている時節にはミレーバにとっては耐えがたい苦痛だったようである[iii]。

 

アインシュタインはこうして、公私両面において苦しい境遇に陥った。心痛のあまり急激に体重を失ったアインシュタインは、ただひたすら激動の世相に対して耳を塞ぎ、一般相対性理論の精緻化に励み、戦後に発表することになる宇宙の発生と成長に関する理論に想いを巡らせた。しかし、アインシュタインにとって何よりも耐えがたかったのは、広大な宇宙の中で生命体が奇蹟のように存在するこの地球上で、小さな地域をめぐる列強の権益や民族の優位性などといった瑣末事をめぐって多くのかけがえのない人命が毎日失われているという現実だったのであろう。

 

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読書ルーム(5)に続く)

 

 

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