【読書ルーム(5) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』プロローグ 5/6 〜 キューリー夫人と第一次世界大戦  作品の目次

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【あらすじ】

第一次世界大戦が勃発してマリー・キューリーが自身ができることとして実践したのは出来る限り多くの負傷兵を死の淵から救うことだった。この目的のためにマリー・キューリーはレントゲン車を考案し、赤十字社と掛け合って従軍医療に携わる許可を得、さらには娘のイレーヌに救命医療を勉学に優先させて従軍させる。

 

【本文】

第一次世界大戦が始まるとマリー・キューリーはいてもたってもいられなかった。故国ポーランドの再興がかかった戦いにフランス人としても何とかして参加したかったのであるが、科学者の使命はもちろん銃を取ることではなかった。次女のイブが母マリーがポーランド出身だという理由で学校でいじめに会ったことも手伝い、自分が選んだ第二の祖国フランスに徹底的につくすことを誓ったマリー・キューリーは、スエーデン銀行に預けっぱなしになっていたノーベル賞の賞金の全額を引き出すとフランス政府発行の戦時国債を購入した。次いでX線照射の技術を持つ科学者や技術者を組織し、負傷者介護の医療班とともに従軍することにした。

 

X線照射班を組織して従軍すると一言で言ってもマリー・キューリーには解決しなければならない問題が山ほどあった。万が一パリが敵国に占領された時のことを考えマリー・キューリーはまず、それまでに手に入れることができたラジウムをフランス南部の港町マルセイユの金庫に移送した。その後パリに戻ったマリー・キューリーはX線照射機器を搬送するための車両の確保から計画を実行に移した。マリー・キューリーは余った車両を貸与してくれそうな富裕家庭や実業家の間を駆け巡り、赤十字社接触し、赤十字社の全面支援を得て「赤十字社放射線班主任」の肩書きを名のることを許された。

 

車両の確保の次にマリー・キューリーがしなければならなかったことは車両の内部にX線照射の設備を整えることだった。X線はマリー・キューリーの専門ではなかったが、物理学の常識としてマリー・キューリーはX線の発生方法やその特性を熟知していた。また、X線を発生させる装置を自ら作製することもできた。マリー・キューリーは自分の研究所やパリ大学からX線発生装置の部品として使うことができるものを持ち出して車両の中で組み立てた。装置を稼動させるための発電機は高価でしかも車で運ぶには重すぎたのでマリー・キューリーは車両のエンジンに接続してエンジンが稼動している間、X線発生装置に電気を供給できるような装置を自分で考案した。マリー・キューリーの十六歳になる長女イレーヌは学校を休んで母を手伝った。一九十四年十月にはほとんど全てがキューリー母娘の手作りになるレントゲン車の第一号が完成し、十一月の始めにはマリー・キューリー、医師、イレーヌともう一人の助手、運転手兼自動車整備工の五人が乗るレントゲン車がフランス-ドイツ間の戦線に向けて出発した。

 

レントゲン車を確保しようとしているうちは車両や資金やX線発生装置の部品の問題がマリー・キューリーを悩ませたが、一旦最前線に到着してからは、キューリー母娘は目を覆うばかりの惨状、流血や負傷した兵士たちの呻き声と日々戦わなければならなかった。しかし母と娘にはひるむゆとりはなかった。

 

マリー・キューリーの長女イレーヌは研究に明け暮れる両親から十分な関心や愛情を与えられて育ったとはいえなかった。イレーヌは主として父方の祖父の愛情と訓育を受けて育ち、妹のイブがまだ幼い頃に祖父が亡くなった時には、イブに対して母親役を勤めるようにマリー・キューリーに言いつけられ、母と娘の関係は必ずしも良好ではなかったようである。しかし、獅子奮迅の勢いでレントゲン車の準備に奔走する母の姿を見て十代の多感な娘のイレーヌは科学の力が何であるかを悟ったのである。ノーベル賞を二度受賞した母マリーと約二十年後に夫フレデリック・ジョリオとともにノーベル化学賞を受賞することになる娘イレーヌはクリミア戦争で活躍したナイチンゲールもかくやと思われる、科学技術に習熟した手で負傷した兵士に次々にX線を当て、体内に留まる弾丸の位置や骨折の部位を特定して医師に報告する役割を担った。

 

マリー・キューリーが手作りで稼動させたレントゲン車を第一号として、第一次世界大戦終結した時までに、戦線を移動するフランス軍に従って稼動するレントゲン車の数は二百台を越えていた[iv] 。

読書ルーム(6)に続く)

 

【参考】

イレーヌ・ジョリオ=キューリー  (ウィキペディア) 母マリー・キューリーはあまりに有名なので割愛、夫フレデリック・ジョリオ=キューリーは後章で掲げる。

 

 

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