【読書ルーム(3) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】 - プロメテウス達よ- 原子力開発の物語

【『プロメテウス』プロローグ 3/6 〜理論と実証】　

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【本文】

厳格なカトリック教徒の数学教師の家に生まれたマリー・キューリーが内向的だったのに対し、南ドイツのユダヤ人の商人の家庭に生まれたアインシュタインは多民族との取引によって生き延びてきたユダヤ人の伝統と商売人の気質を受け継ぎ、相手の理解力に合わせて自分の理論を説得力豊かに解説したりするだけではなく、政治情勢などに歯に衣着せぬ意見を述べることさえある社交家だった。マリー・キューリーが自分の祖国ポーランドを蚕食し、第二の祖国であるフランスに対して事を構えるドイツに対して煮え切らない思いを抱いているのに対して、若い頃にスイスの風土と国民性に魅せられてドイツ国籍を捨て、五年間の無国籍時代を経てスイスの国籍を取得したアインシュタインの国籍や文化に対する考え方は世界市民のそれに近かった。

学問の追求姿勢においても実証主義者のマリー・キューリーとは異なり、アインシュタインは自分の理論を自分で実証することはなかった。しかし、それは一九〇五年にアインシュタインが発表したいわゆる特殊相対性理論が重力場を考慮に入れない観念上の物体の動きを宇宙レベルのスケールで説明するものだったからである。その後、アインシュタインはさらに、重力場の観念を導入することによって特殊相対性理論を修正する、いわゆる一般相対性理論の構築に着手した。そして、一般相対性理論が一応の完成を見て世間に発表された後、天文学者らが、自分では実験器具を組み立てたり実験の白衣を纏ったりすることのないアインシュタインに代って、その理論を証明しようとする試みに着手した。

ニュートンの古典力学を革新した特殊相対性理論に重力場の観念を取り入れてさらに精緻化した一般相対性理論を証明するためには、実際に観測される天体現象が、惑星の動きの整合性を見事に説明したニュートンの古典力学とのほんのわずかな乖離を証明しなくてはならない。地球上で天体を観測する人類に視覚、すなわち光を介在して与えられる地球外からの天体の情報が重力場によってわずかばかり歪んでいるという事実を示し、その事実がリーマン幾何学によって表現されているアインシュタインの一般相対性理論と一致すればよいのである。そして、光が重力場によって、あたかもガラスのような透明な物体に斜めに当てられた時のように回折するという事実だけを直裁に証明するためには、日食の際の光の軌跡を仔細に観測すればよいのである。アインシュタインの一般相対性理論が発表されてから直近の後に起きる日食は一九一四年八月二十一日にシベリアで観測されることになっていた。

ドイツ人天文学者のフロインドリッヒがシベリアでの観測を請け負い、旅費等を支給する裕福な支援者も現れ、一行は一九一四年七月中旬に東ヨーロッパ鉄道とシベリア鉄道を乗り継いで日食が観測できる地点に向かった。しかし、フロインドリッヒが出立するわずか半月前、つまり一九一四年の六月末、バルカン半島のセルビアでオーストリア皇太子夫妻が暗殺され、一ヶ月後、一行が汽車の旅をしていた最中にオーストリアがロシアに対して戦宣布告してオーストリア、ドイツ、イタリアの三国同名にハンガリーとトルコを加えた諸国とロシア、イギリス、フランス三国協商との間で第一次世界大戦が勃発した。シベリアを横断しつつあったフロインドリッヒは敵性外国人として捕らえられ、観測器具などは全て没収されてしまった。

（読書ルーム(4）　に続く）

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