【読書ルーム(65) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第3章  プロメテウスの目覚め〜預言者たちは走る 6/7】  作品目次

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【本文】

二人はアインシュタインニューヨーク市ブルックリン区よりもさらに東のロングアイランドにあるペコニックという町の別荘に滞在しているということ以外、アインシュタインの詳しい住所も知らないまま出発し、ペコニックに到着して途方に暮れた。二人はアインシュタインの別荘の持ち主である科学者の名前を知っていたので町の至るところで持ち主の名前を便りにアインシュタインの別荘を探し出そうとしたが埒があかなかった。疲れ果てた二人がマンハッタンに帰ろうかと考え始めた時にシラードによい考えが浮かんだ。

「子供に聞いてみよう。」

そこでさっそく二人は道を歩いていた小学生くらいの子供をつかまえてアインシュタインの風貌について詳しく説明し、そういう人が歩いているのを見かけたことがないかどうか尋ねた。するとアインシュタインの居所は意外なほど容易にわかった。戸が開け放たれた別荘のベランダからシラードが声をかけると、なつかしいアインシュタインが飾り気のない夏の普段着姿で現れた。

 

書斎に案内され、シラードとウィグナーはコロンビア大学でのフェルミの研究の進捗状況やテラーやワイスコプフなどを交えた協議の結果をアインシュタインに説明したが、年初から初夏にかけてボーアからその件に関して十二分に意見を聞かされているはずのアインシュタインウラニウム核分裂を莫大なエネルギーの放出に繋がるよう連鎖的に継続させることはやはり、不可能ではないまでも非常にむずかしいだろうと答えた。ボーアもデンマークに戻る直前にそのように語っていた。

 

「数トンのウラニウムが必要になるでしょう。」とシラードが言った。そしてそのウラニウムというのが天然に存在するウラニウム鉱石をただ精錬したものか、あるいはそのウラニウムの中に1パーセント弱しか存在しないウラニウム235のことを指しているのか、とアインシュタインが尋ねた時、シラードは「ウラニウム235です。」と答えるしかなかった。

 

「それでは、天然ウラニウムが数百トン必要になるということだが、問題はウラニウムの九十九パーセント以上を占めるウラニウム238と質量の差がゼロ・コンマ・数パーセントしかなく、残りのウラニウムと化学的性質が全く同じウラニウム235とをどうやって分離して数トンのウラニウム235を手に入れるかだ。」

「それは、遠心力かなにかを利用して力学的に・・・。」とシラードとウィグナーは口々に想定できる力学的方法について述べたが、それらはすべて、シラード、ウィグナー、テラー、ワイスコプフの四人がいろんな機会に出会って核分裂の可能性について意見を交換した際に核分裂の連鎖反応を阻む実際的な要素として幾度となく四人のうちの誰かが口にしてきたことばかりだった。しかし、実際上存在するそれらの障害は何らかの方法によって必ず克服されるであろうということを前提に四人の意見は一つにまとまっていた。アインシュタインに向かって実際上存在する各種の問題をどうやって克服するのか、考えられる限りの可能性を説明するうち、シラードの脳裡に自分の忠告を無視してコロンビア大学の研究棟で平然として実験を続け、そればかりか自分のことを偏執狂(ナッツ)と呼んだフェルミの自信に満ちた表情が思い浮かんだ。

 

フェルミ核分裂の連鎖反応を起こすのに、ウラニウムは数トンも必要ないと言っています。天然ウラニウムが五百キロもあれば十分だと言っています。でも、その根拠に関しては何も呈示してくれていません。」

実際、ハーンとシュトラスマンによる核分裂の確認の知らせを聞いてからというもの、フェルミローマ大学ノーベル賞受賞の対象となった物質への中性子線照射の実験を行っていた頃から継続して抱いていた課題、すなわち核分裂を引き起こすのに最も適した中性子の照射速度、そして中性子を効果的に吸収する物質の特定などに没頭しきっていた。フェルミの目標は新しいエネルギー源を人類にもたらすことだった。そして、その新しいエネルギーを商業的に採算がとれるような形でウラニウムから効率的に引き出すためには気の遠くなるようなウラニウム235の天然ウラニウムからの分離のことはひとまず忘れて、天然ウラニウムの使用を前提とする必要があった。

(読書ルーム(66)に続く)

 

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