【読書ルーム(82) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第3章  プロメテウスの目覚め〜最前線からの使者 3/6 】  作品目次

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【あらすじ】

2つ目の報告書を国防委員会に提出するまでにコンプトンは米国東海岸の研究施設も訪ねていたが、ニューヨークのコロンビア大学ではフェルミ中性子線照射によって原子力開発の核となる核分裂の継続と制御に取り組み、ユーリーがウラニウム235の分離に取り組んでいた。さらにプリンストンではウィグナーが天然ウラニウムへの中性子線照射とプルトニウム生成を同時に行ういわゆる増殖炉の開発に着手していた。これらを視察したコンプトンは原子力開発には多額の費用と長い時間がかかるという当初の慎重な姿勢は変えないものの原子力利用の実現には思ったほどの時間はかからないのではという希望を抱き始めた。

 

【本文】

ウィグナーはプリンストンとニューヨークが距離的に近いこともあり、コロンビア大学フェルミと密接に連絡を取り合いながら研究を進めていた。フェルミ自身は一九三九年の始めに核分裂の可能性について知ってからというもの、一貫して炭素を中性子の速度調整に用い、中性子の速度を減じながら中性子が吸収されないようにして核分裂の連鎖反応を惹起することに執念を燃やしていたが、ウィグナーは一方で、前年にマクミランが人造元素を生成するかもしれないと聞いたその時から新元素の核分裂の可能性を想定して新元素生成と核分裂を同時に行う装置の構想を練り、シーボーグらが新元素の化学的性質を、そしてフェルミの昔の助手であるエミリオ・セグレが新元素が核分裂を起こす事実を確認してからというもの、フェルミが行っている天然ウラニウムへの中性子照射とマクミランとシーボーグらによる天然ウラニウムからのプルトニウム生成を同時に行う、いわゆる増殖炉の開発に本格的に着手していた。

 

フェルミが照射しているのは中性子、シーボーグがプルトニウムの生成に成功したのは加速重水素、この二つの操作を組み合わせれば有効な結果がきっと得られるに違いない。」とウィグナーは確信をもってコンプトンに語った。

 

コロンビア大学を訪れたコンプトンはさらにフェルミの研究の進捗状況と並んで、重水の発見によってノーベル化学賞を受賞したハロルド・ユーリーがウラニウム235の分離に取り組んでいた。フェルミはあくまでも天然ウラニウムを使用して核分裂の連鎖反応を起こすつもりでいたが、二人の研究がそろって成功すれば、原子力の利用の可能性は飛躍的に高まると考えられた。

 

聴取した内容を総合したコンプトンはやはり、原子力開発には時間がかかるという結論を変えはしなかったが、新元素の原子力への応用可能性が浮上したのとほぼ時を同じくしてウィグナーのようにその方法の簡略化と時間と労力の節約を研究目標にする科学者が現れ、またウラニウム235の分離法の研究も着々と進められているということは、もしかすると原子力開発は当初の予想に反して短期間で達成されるかもしれないとコンプトンは考え、その開発の労力を節約する方法を論じ、かつ機密を保持することを提案することが七月十一日に国防研究委員会に提出された二つ目の報告書の骨子だった。

(読書ルーム(83) に続く)

 

【参考】

ハロルド・ユーリー (ウィキペディア)

 

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