【読書ルーム(22) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【 『プロメテウス』第1章  プロメテウスの揺籃の地 16/27 〜 ハイゼンベルクの青年時代〜 博士号取得】  作品の目次

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【本文】

一九二三年の五月にハイゼンベルクミュンヘンに戻り、目前に迫った博士号取得の口頭試問に備えて猛勉強を開始した。試験は七月の下旬に行われることになっていた。

 

​当時、ミュンヘン大学では博士号は口頭試問に合格した者に与えられ、合格者は成績に応じて四段階の評価を受けることになっていた。ハイゼンベルクがその口頭試問を受けた一九二三年の七月二十三日だった。ハイゼンベルクアメリカから帰国したばかりのゾマーフェルト教授が行った理論物理と数学の口頭試問では目覚しい回答をして最高の評価を受けたが、天文学の口頭試問では多少口ごもって評価を落とし、実験物理学、とりわけ電磁学の実験機器の扱い方に関する質問に対しては不勉強を露呈して合格点の中でも最も低い成績に終わった。これはハイゼンベルクの一歳年上の先輩パウリの場合でも多かれ少なかれ共通していた。全ての科目の試験が終わり、ハイゼンベルクの博士号取得の成績は四段階の合格点のうち上から三番目、あるいは下から二番目という成績だった。

 

​その日の晩、ゾマーフェルト教授とその夫人は博士号を取得したばかりの教え子たちを自宅に招いてささやかなパーティーを企画していた。しかし、自尊心をひどく傷つけられていたハイゼンベルクはパーティーには出席せず、その日のうちに旅行の準備を調えて夜行列車に飛び乗るとゲッチンゲンを目指した。原子の世界中の探求において尊敬するニールス・ボーア教授やマックス・ボルン教授に迫ろうとしていたハイゼンベルクにとって、実験物理学を含めた博士号取得試験に合格はしたものの、自分と比べて凡庸な才能しか持ち合わせていない他の学生に劣る下から二番目の成績しか取れなかったことは正に屈辱的な体験だった。自分を高く評価してくれているゾマーフェルト教授が最高点をつけたのにもかかわらず、全科目の平均が低い成績に終わったのは、実験を重視する教授らが低い点をつけたからだということをハイゼンベルクは知っていた。少年時代にアインシュタイン古典力学を刷新する相対性理論を打ち立てたことを知って以来、ハイゼンベルクには実験に固執する伝統的な物理学の考え方がわずらわしく感じられた。とりわけ自然現象を説明するための数学ばかりを追求するゲッチンゲン大学での物理学の研究姿勢に接する直前に極小の原子の世界に推論を巡らす天才ボーアに出会い、実験の及ばない世界に想いを巡らすことが学問に他ならないとハイゼンベルクは考えるようになっていたのである。夜の闇のかなたにあるゲッチンゲンに何が待ち受けているのかはわからなかったが、ハイゼンベルクは夜行列車に揺られながらひたすらボルン教授に再会したいと思ったのに違いない。

(読書ルーム(23) に続く)

 

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