【読書ルーム(24) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第1章  プロメテウスの揺籃の地 18/27. 〜 ハイゼンベルクの青年時代〜 ゲッチンゲンからコペンハーゲンへ】  作品の目次

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【本文】

アインシュタインが激褒したド・ブロイの理論にアインシュタインの古くからの朋友だったマックス・ボルンが当初から疑問を呈したことにより、アインシュタインとボルンの古くからの友情には学問を巡っての確執の萌芽が生じたのであるが、極小の世界を支配する法則に対するボルンの真摯な追求姿勢は学位を取得して学問の道への第一歩を踏み出そうとしていたハイゼンベルクに一層の影響を与えずにはおかなかった。

 

パウリのハンブルク大学への移籍やアメリカからの寄付といった幸運によってハイゼンベルクがゲッチンゲンに落ち着いた頃、ハイゼンベルクのもう一人の師であるニールス・ボーアアメリカへ旅行し、ロックフェラー財団からのコペンハーゲンの研究所に対する当時としては大金の四万ドルという寄付を獲得して北国デンマークが冬の入り口にさしかかった十一月に意気洋々として帰国した。

 

「手狭になった研究所を拡張するからそうしたら是非、コペンハーゲンに来なさい。」というボーアからの誘いを受け、ハイゼンベルクはボーアの研究所が新しくなる春を心待ちにした。

 

ハイゼンベルクの初めてのコペンハーゲン訪問はミュンヘンで学位を取得した翌年の一九二四年三月に実現した。一週間の短い滞在期間ではあったが、ボーアと部下の科学者たちは研究所を挙げてドイツの期待の星ハイゼンベルクを迎え、ボーアの妻や大勢の子供たちも一家総出でハイゼンベルクを暖かく歓待した。また、今まで自然科学の研究所としては大学しか知らなかったハイゼンベルクは教室や図書室、実験室から短期間滞在する研究者のための宿泊施設まで備えたボーアの研究所の学際的でかつ国際的な雰囲気に目を見張った。ハイゼンベルクはこの時ここで、屈辱的だった学位取得のことを終に忘れ、広大な宇宙や極小の原子世界中を探求するためには実験に束縛されるのではなく、実験や観測を正しい方向に導くためにも強固な理論の構築が必要であることを再び悟って自信を取り戻したのである。ハイゼンベルクがゲッチンゲンに戻った後、ボーアは恒例になっていた夏期講座の講師を務めるためにハイゼンベルクを追ってゲッチンゲンを訪れ、折りしも一年間の予定でアメリカの大学での客員教授を引き受けて旅立とうとしていたボルン教授に、不在中にハイゼンベルクコペンハーゲンによこすよう要請した。その上、ボーアはハイゼンベルクコペンハーゲンへの滞在中、ロックフェラー財団から生活費を支給できるよう働きかけることも約束した。こうしてハイゼンベルクはその年の秋から八ヶ月間、憧れの的だったボーアの下で研究を行うことになったのである。

(読書ルーム(25) に続く)

 

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