【『プロメテウス達よ』エピローグに代えて

「天然ウラニウム崩壊の発見から人工核分裂まで(オットー・ハーンのノーベル賞受賞講演)」3/7

 

リーゼ・マイトナーと私は、この十三分の寿命しかない元素がプロタクティウムの同位体であるのかどうかをつきとめるためフェルミの実験を繰り返すことにしました。プロタクティウムは一九十七年に発見され、私たちはすでにその化学的性質を熟知していたので、私たちはこのように決めたのです。その上、ベータ線を放つ原子番号九十一番の元素の同位体は、私がウラニウム塩の中で発見したウラニウムZと呼ばれる、半減期が実験に支障のない七時間ほどの物質と同一であるということで私たちの間で知られていました。


「標識子法」と呼ばれる方法を使用することによって、私たちはフェルミが生成した寿命が十三分の元素がプロタクティウムでもなければウラニウムやトリウムの同位体でもないということを証明することができました。当時の科学的知識からすればフェルミの主張は正しく、寿命が十三分の元素は周期律表でウラニウムの次に位置する新元素だと結論できることもでき、その他の可能性を考える者はいなかったということを指摘しておきます。中性子の発見と人工的な放射線源の応用によって原子核内部において通常では起こりえない多くの反応が発見されました。それらの反応がもたらすものは常に放射性同位元素か周期律表で一つあるいは二つ上位に位置する元素でした。すなわち、質量の高い原子核が分裂して二つ以上の質量の低い原子核が生成されるという可能性は完全に可能性から外されていたのです。

 

フェルミが生成した寿命十三分の元素やフェルミがもたらした意味に関してはあまりはっきりしていないその他の実験結果を検証するうちに私たち、すなわち私とマイトナー、後には私とシュトラスマンは、現存する周期律表で最高位に位置する元素の放射線放出の現象は当初考えられていたのよりもずっと複雑であるということを発見しました。最初に研究の内容を明らかにした時にフェルミと共同研究者たちは一つは半減期十秒、もう一つは四十秒でベータ線を発する二種類の原子があることに触れています。これらの物質は天然ウラニウム中性子線を吸収させることによって人工的に生成されたウラニウムの放射性同位元素であるとフェルミらは当然のように考えました。リーゼ・マイトナーと私はこれらに加えて半減期二十三分の物質を発見し、それがウラニウムの放射性同位元素であると結論づけました。フェルミが生成した、ウラニウムと共に存在する寿命の極めて短い放射性物質が何であるのかについて推論はなされましたが、結論を得ることはできませんでした。半減期二十三分の元素は「共鳴過程」と呼ばれる放射線を発しない別の過程によって生成されました。


私とマイトナー、シュトラスマンが行った長年にわたる共同研究によって多数の放射性同位元素が得られましたが、それらは全て、極めて短命なウラニウム同位体と見られるベータ線を放つ物質から間接、直接に得られたものであり、その意味でウラニウムが移行してできた、周期律表でウラニウムよりも高位に位置する「超ウラニウム」と呼ばれてもよい物質でした。それらの物質の化学的性質は、それらの物質が様々な元素族に所属していることを示し、それらの物質が多くの場合において元々存在した放射性物質からゆっくりと変化していって生成されるということをはっきりと観察することができました。この生成過程はいわゆる原子番号九十五番と九十六番に至るまでの元素で観察できました。また、同様の実験を試みた研究者らも同じ結果を確認していました。


私とマイトナー、シュトラスマンがこのような「超ウラニウム」に関する研究を行っていた一九三七年と一九三八年、キューリーとサヴィッチはウラニウム中性子を照射することによって半減期が三時間半の物質を生成しましたが、その物質の化学的性質を特定することはできませんでした。キューリーとサヴィッチによれば、その物質は希土類に属しているように見受けられ、ランタニウムに近い性質も備え、「部分的結晶化」と呼ばれる過程によってのみランタニウムから分離することができたとのことでした。


キューリーとサヴィッチは考慮した末、その物質を「超ウラニウム」の一群に加えることにしましたが、彼らによる生成過程の説明は難解かつ不完全なように見受けられました。半減期が三時間半のこの物質が「超ウラニウム」の一群に加えられたので、私とシュトラスマンは同じ物質を生成してみようとしました。慎重な実験の結果、私たちは驚くべき結果に遭遇しました。それは要約すると次のようになります。


「私とマイトナー、シュトラスマンが生成した複数の『超ウラニウム』元素に加えて、アルファ線照射を二度にわたって繰り返すことによって三通りの異なる半減期を持ち、全てベータ線を放出するラジウムの放射性同位元素が生成され、それらは次いでベータ線を放出するアクティニウムの同位元素への変化したのです。」生成された物質の化学的性格はそれらがラジウムまたはバリウムであることを示していましたが、ラジウム同位体が生成されたということだけが唯一の可能性でした。当時の物理学の常識から考えて、バリウムが生成されるということは考えられなかったのでラジウムだけが可能性として残されたわけです。

(プロメテウス達よ 〜 原子力開発の物語 「エピローグに代えて」 4/7 に続く)

 

【参考】

リーゼ・マイトナー (ウィキペディア)

エンリコ・フェルミ (ウィキペディア)

半減期 (ウィキペディア

放射性同位体 (ウィキペディア)

放射性同位体半減期順一覧 (ウィキペディア)

ウラニウム (ウィキペディア)

トリウム (ウィキペディア)

ラジウム (ウィキペディア)

ポロニウム (ウィキペディア)

アクティニウムまたはアクチニウム (ウィキペディア)

ランタニウムまたはランタン (ウィキペディア)

プロタクティウム

 

 

[ノーベル賞財団のサイトに掲載されているオリジナル(英文)]

 

作品の目次

 

作品の大トリにオットー・ハーンを選んだ理由

 

オットー・ハーン (ウィキペディア)

『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 エプシロン作戦

Operation Epsilon (Wikipedia)

 

【お知らせ】

下の画像は作りかけの本作品電子版の表紙です。出版社はお任せ出版社のアマゾン(Amazon International Services)です。ということは今のところアマゾン専用の電子ブックリーダーのキンドルのみで講読が可能だということです。こちらはそれほど高額ではありませんが有料となります。キンドル版には次のような優れた点があります。

・ 縦書き表示であること

・ 文字の大きさを変えられ、また字体を変えたり太字にしたりできること

さらにキンドルは数百冊以上の書籍を入れることができ、重量は文庫本並みです。アマゾンはお任せ出版社なので内容や誤字脱字などには自分で責任を持たないといけませんが精一杯努力する所存です。(予想価格:700円 要キンドル)

 

f:id:kawamari7:20211231225530j:image