【読書ルーム(146) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 ソビエトとの確執 6/8 】   作品の目次   このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属します。


【あらすじ】

同郷の朋友シラードとの考え方の齟齬を認識することもないままシラードを探し求めていたテラーはその代わりにロスアラモスで人事を巡ってあまり良い感情を抱いていなかったハンス・ベーテに遭遇した。自分の考えは全ての科学者に共通であると思い込んでいたテラーはベーテに対してオッペンハイマー排除の必要性を解き、テラーのこの態度はベーテを驚愕させ、また憤慨させた。

 

【本文】

テラーはシラードが出席しているかもしれないと期待して物理学の学会が開かれている会場を訪れた。そこでばったり出会ったのはシラードではなく、公聴会で証言を済ませた後に学会への出席のためにワシントンDCに残っていた、ドイツ出身のユダヤ人でコーネル大学教授のハンス・ベーテだった。マンハッタン計画が離陸してからというもの、テラーとベーテはあまり良い関係にはなかった。その理由は、マンハッタン計画が進行中にオッペンハイマーがとった二人に対する処遇の差にあった。ロス・アラモスにおいては、発展しつつあるあらゆる組織と同じく、ある部門が肥大して一人の部長が統括しきれなくなった場合、部門を分割して新しい部門を創設し、新しい部長を任命するのが常だったが、理論値の計算を専らとする部門が独立した際、テラーの期待に反してオッペンハイマーが部長に任命したのはベーテだった。個性の強いテラーには多数の部下に対して采配をふるうのには向かず、テラーは相性の合う数人と共に小規模な企画に携わるのがふさわしいとオッペンハイマーは考えたのである。したがって、ロス・アラモスに出向している間中、テラーはベーテなど、大きな部署の責任を任された科学者たちに対して肩身の狭い思いを感じざるを得なかった。


テラーの姿を見とがめたベーテはテラーに歩み寄るとオッペンハイマーが解任されないように宜しく頼むと心から懇願した。しかしベーテの意見が科学者全般を代表するもだとは思っていなかったテラーはベーテに向かって、目下の国際情勢を鑑みるならば政府内部において水素爆弾開発に反対するオッペンハイマーアメリカを始めとする西側自由陣営の敵であり、また水素爆弾の開発に反対することは科学の発展を阻むことにもなるので、是非とも彼を政府には声が届かないところに追いやるべきだと述べた。ベーテは呆気に取られた。水素爆弾開発に反対していたベーテにとって、原子爆弾が科学者の手を離れて広島と長崎で大規模な殺戮と破壊を行った後の世界において、オッペンハイマーは科学者の良心を代弁する存在であり、そのオッペンハイマーが政府内部で発言権を失わないよう、科学者は一丸となってオッペンハイマーを弁護するのが当然だとベーテは考えていたのである。テラーとのこの会話は思い出す限り生涯で最も不快なものだったとベーテは後に述懐した。ベーテとテラーの間には決定的な亀裂が生じたが、その時のテラーはいまだベーテとの間に生じた亀裂は単に個人的な意見の相違に端を発するものだと考えていた。


一九三九年の夏にルーズベルト大統領に宛てた書簡を携えてシラードと共にロングアイランドで休暇中のアインシュタインの元に署名を求めに車を走らせた時と同様、自分が効果的な行動を採ることによって、オッペンハイマーやベーテのような水素爆弾の開発に反対する意見を覆し、事態は西側陣営の強力な核武装のほうに傾くであろうと公聴会での証言を目前にしたテラーは思った。

(読書ルーム(147) に続く)

 

【参考】

ハンス・ベーテ (ウィキペディア)

 

映画ルーム(160) 博士の異常な愛情 〜 古色蒼然の恐怖戯画… 6点

 

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