【読書ルーム(145) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 ソビエトとの確執 5/8 】   作品の目次   このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属します。


【あらすじ】

オッペンハイマー解任の件に関する公聴会では概ね水素爆弾開発によって利益を得る産業界の代表が彼を攻撃し、彼の人となりを知る科学者らが擁護する立場を取った。ただ水爆開発を強く推すテラーにとってはオッペンハイマーは邪魔者でしかなかった。テラーは第二次世界大戦勃発直前にともにアインシュタインを動かして大統領に書簡を送った同郷の朋友シラードも自分と同じ考えであると考え、公聴会で証言する前にオッペンハイマーを排除するための策を一緒に練ろうとワシントンDCの市中でシラードの姿を求める。しかし、マンハッタン計画が進行中に職場を異にした二人には考え方に大きな相違があり、そしてこの後に及んでも二人はお互いを同志だと考えていた。

 

【本文】

オッペンハイマーを古くから知る科学者たちがオッペンハイマーの人柄と水素爆弾開発に反対する純粋な動機を擁護したのに対し、ストラウスを中心とするオッペンハイマーに反対する原子力委員会の関係者らはオッペンハイマーを執拗に批難し、水素爆弾開発に反対する姿勢を共産主義に結びつけて糾弾しようとした。


オッペンハイマーにはハーコン・シェブリエという、両親の国際結婚によって北欧風の名前とフランス風の苗字を持つフランス語教師の友人がいた。オッペンハイマーは文学への関心を通じてシェブリエと知り合い、親交を結んだのであるが、シェブリエにはアメリカ企業に勤めているイギリス人の技師の友人がいて、そのイギリス人技師にはソビエトの技術者と交友関係を結んでいるということが判明していた。ストラウスを代弁する諮問委員会の委員はオッペンハイマーに鋭く問いただした。


「一九四三年始めの某月某日、あなたは妻とともにハーコン・シェブリエとその妻を自宅に呼んででもてなしました。四人の間で話題が一段落した時、あなたは席をはずし、好物のマルティニを自分で作ってみんなにふるまおうとして台所に行きました。するとシェブリエもあなたを追って台所に向かいました。その後、台所でシェブリエとの間にどんな会話があったのですか?」


十年以上も前でオッペンハイマーがロス・アラモスに移る直前の一九四三年年初某月某日の台所での会
話に関してはハーコン・シェブリエも喚問を受けたがシェブリエとオッペンハイマーの証言には食い違いがあった。結局、この事件に関する二人の曖昧な証言からはオッペンハイマーソビエトの技術者と通じているという確証は得られなかった。政府内の鷹派や原子力委員会のストラウスが仕組んだこの謀略によってシェブリエはフランス語教師の職を失った。


エドワード・テラーは公聴会開始の一週間後、四月二十八日に証言することが決まった。居住していたカリフォルニアからワシントンDCに赴くに先立ち、用があってニューヨークに滞在中だったシラードからテラーの承認喚問の前日にワシントンDCに行くという連絡があった。一九五二年にテラーがカリフォルニアに転居した後、シカゴで生物学を研究するシラードとは両者ともに原子物理学を研究していた以前ほど頻繁に交渉することはなくなったが、テラーはナチスの脅威を共に感じ、ロングアイランドで休暇中のアインシュタインを二人で訪ねてルーズベルト大統領宛ての手紙への署名を要請した一九三九年の夏と同じく、シラードが共産主義に脅威を感じて水素爆弾の開発に賛成しているものだと思い込んでいた。そして、水爆開発の明らかな障害となるオッペンハイマーを政府の諮問機関から除去するための智恵を借りようと、テラーはワシントンDCのめぼしいホテルや旅行者が訪れそうな場所をシラードのずんぐりした姿を求めて歩き回った。


同じ頃、テラーが滞在するホテルの名前や場所を知らなかったシラードはテラーと同じく、ワシントンDCのめぼしいホテルや旅行者が訪れそうな場所を、長身のテラーの姿を求めて尋ね回っていた。シラードにとってオッペンハイマーの今回の事件は科学者の良心への国家権力の許すべからざる介入だった。シラードはオッペンハイマー連邦政府への頻繁な発言を意図して東海岸に転居したと聞いた時から政治に対するオッペンハイマーの野心が理解できず、科学者が関わるべきではない余計なことに彼が気を取られていると思っていた。しかしシラードは、三十歳台だった頃のオッペンハイマーの純粋な理想主義を理由としてオッペンハイマーを諮問委員長の職から解任するという政府の措置には断固抗議しなければならないと考えていた。そこでシラードは翌日の証人喚問ではオッペンハイマーの国家に対する忠誠心が疑われるような発言は決してしないようテラーに懇願しようと考えてテラーを探し回ったのである。

(読書ルーム(146) に続く)

 

【参考】

エドワード・テラー (ウィキペディア)

レオ・シラード (ウィキペディア)

 

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