【読書ルーム(142) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 ソビエトとの確執 2/8 】     作品の目次    このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属します。


【あらすじ】

核兵器を手中に納めたソビエト連邦の脅威は西ヨーロッパでは共産主義者だということを暴露したジョリオ=キューリーのフランス原子力委員長からの解任という結果をもたらしたが、アメリカでもノルマンディー作戦によって原子爆弾の使用なしにドイツを降伏に追い込んだアイゼンハウアー将軍が大統領に就任すると、青年時代に共産主義に関心を持ち、身内のにも共産主義者がいるオッペンハイマー原子力行政から遠ざける画策がなされていった。

 

【本文】

一九五一年、フランスで解放直後から政府原子力開発庁長官を勤めていたフレデリック・ジョリオが突然解任された。ジョリオはナチス占領下のフランスで抵抗手段を求めて共産党に入党したことを隠し立てもしなかったが、共産党への入党歴がある人物を政府の要職に留めることは政権と国民の両者が快く思わなかった。


トルーマン大統領の任期も終わりに近づいた一九五二年十一月一日、長年懸案だった水素爆弾が終に完成し、太平洋で実験が行われた。重水および三重水を使用した水爆の威力はTNT火薬約一千万トン分に相当し、立ち上がったきのこ雲の直径は五キロに及んだ。ウラニウム爆弾が広島に落とされた際、爆発直後に湧き上がったきのこ雲の直径は百五十メートルにすぎなかった。


一九五三年、トルーマンに替わって前年に大統領に選ばれた共和党出身のアイゼンハウアー大統領は、オッペンハイマーを国家内部に巣くう敵とみなし、終に鉄槌を下した。トルーマン大統領の命令によってオッペンハイマーの身辺に探りを入れられるようになってから、FBIが傍受したオッペンハイマーの電話の記録や交友関係、行動などの記録は膨大な量に上っていた。その内容としては仕事がらみの会話が多かったが、延々と続くオッペンハイマーと友人との雑談や妻との会話などが含まれる一方でオッペンハイマー共産党の関わりを示すものは全くなく、FBIの傍受と記録には値しないものがほとんどだった。マンハッタン計画が本格化したある日、オッペンハイマーの元婚約者で共産党入党歴があったジーン・タトロックが偶々バークレーに戻っていたオッペンハイマーに電話をし、「落ち込んでいるの。来てちょうだい。」と言ったのが傍受されたことがあった。タトロックの家に向かったオッペンハイマーはすぐに自宅に戻るものだとFBIの担当官は思って尾行したが、期待に反してオッペンハイマーは昔の恋人の家で一夜を過ごし、その間FBIの担当官は見張りを続けなければならなかった。FBI原子力開発諮問委員会議長の、共産主義とは全く無縁の私生活に振り回されるのに疲れはてていた。FBIが収集して文書にしたオッペンハイマーの言動の記録は床に積み上げれば一メートル四十センチの高さに達した。アイゼンハウアー大統領が下した結論はオッペンハイマーを解任することだった。


第二次世界大戦中、アメリカ軍のヨーロッパ戦線での最高司令官として采配を振った共和党員のアイゼンハウアー大統領は民主党員で政敵だったトルーマン前大統領とは異なり、オッペンハイマーに対して厳しい態度を取ることが可能だった。まず、自らも国民的英雄であるアイゼンハウアーは同じく国民的英雄であるオッペンハイマーに対して遠慮する必要がなかった。フランスやベネルックス三国は言うまでもなく、原子爆弾の投下なくしてドイツがナチスから解放されたのは、一九四四年六月六日に敵の意表をついてノルマンディー上陸作戦を敢行したアイゼンハウアーの英断によるものだった。マッカーサー元帥が総指揮を取ったアジア戦線がどうあれ、アイゼンハウアーが担当したヨーロッパ戦線では原子爆弾は必要なかったのである。

(読書ルーム(143) に続く)

 

【参考】

ドワイト・アイゼンハウアー (ウィキペディア)

 

ノルマンディー上陸作戦 (ウィキペディア)

 

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