【読書ルーム(110) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜 欧州の戦況と科学者諜報部員 2/3 】  作品の目次

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【本文】

ハイゼンベルクを拉致すればドイツの原子力開発計画は頓挫する。」と、アルソスの諜報部員たちは勇み立った。中には「もしもハイゼンベルクが抵抗したら、われわれ連合国の安全のためには、たとえノーベル賞受賞者であってもハイゼンベルクを殺害すべきだ。」という強硬論を主張する諜報部員さえいた。しかし、アルソスの期待に反してハイゼンベルクはスイスには現れなかった。


一九四四年六月六日、米英の連合軍がノルマンディーに上陸し、ヨーロッパ戦線は新たな局面を迎えた。そしてその直後、レーダーの開発に携わってアメリカ東北部にあるマサチューセッツ工科大学とイギリスの間を行き来しながら原子力開発プロジェクトへの招聘を心待ちにしていたゴードスミットに連邦政府から終に声がかかった。
「諜報部員としてヨーロッパに渡ってください。」

 

一線級の科学者の諜報活動への採用はアルソス・ミッションだけではなくアメリカ政府の諜報活動の歴史でも初めてだった。アルソスはナチス・ドイツによる核兵器の開発を何としてでも阻止しなければならなかったが、アルソスによる研究機関の査察の際に専門に明るい者がいなければ押収する物件を選択できず、ナチスに協力的な科学者を拘束したところで専門知識がなければ核兵器の開発に関して効果的に尋問をすることもできない。ゲッチンゲンの同窓とのプロジェクトでの再会はかなわなかったが、ゴードスミットはこの申し出を心から喜んだ。自分の専門知識や特技が最大限生かされることに加えて、何よりも、英米仏の軍隊に守られながらナチスに蹂躙された祖国オランダに戻ることができれば、一年以上の間にわたって音信不通となっている両親の消息について何らかの手がかりを得ることができるかもしれなかったからである。

 

グローブスは事前にユダヤ系のゴードスミットのこのような個人的な欲求までも計算に入れていた。ゴードスミットに関しては専門に加えて語学力、宗教、趣味に至るまでの全てがアルソスの目的にかなっていた。そしてもし万が一、ゴードスミットがナチスによって拉致されるようなことがあっても、ゴードスミットの口からマンハッタン計画の進捗状況が洩れないようにするため、グローブスはゴードスミットをマサチューセッツ工科大学のレーダー開発プロジェクトに留めてマンハッタン計画による原子力開発からわざと隔離したのである。

(読書ルーム(111) に続く)

 

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