【読書ルーム(101) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜 新たな段階とボーアの参加 1/8 】  作品の目次

この記事の内容全ての著作権はかわまりに帰属します。

 

【あらすじ】

世界各地から自由を求めてアメリカにやってきて頭脳の故にマンハッタン計画に採用された科学者達の中には若い頃に共産主義の思想に関心を持った者もいた。FBIは少なくともアメリカで青年時代の大半を過ごした科学者については思想信条を明らかにしていたが、海外出身の科学者についてはなすすべがなかった。プロジェクトの管理部門のトップであるグローブスはこともあろうに科学技術部門のトップであるオッペンハイマーが若い頃に共産主義に関心を持っていたことをFBIから告げられてもそれは一時の若さから来る好奇心の所産で取るに足らないことだと考えた。プロジェクトは科学者達の思想信条を理由に彼らをいちいち排除しては成り立たないほど科学技術に依存していた。

 

【本文】

原子爆弾の最終的な製造拠点としてオッペンハイマーと共にロス・アラモスを選定し、その後、首都ワシントンDCに戻っていたグローブスにある日、FBIの捜査官が極秘の内容を語りたいと言って面接を求めた。

 

FBIマンハッタン計画に携わる科学者たちの思想・信条や過去の交友歴をくまなく探っていた。FBIの担当官はグローブスに、オッペンハイマーは過去において共産主義に非常な同情を示したことが判明したのでオッペンハイマーマンハッタン計画の科学者・技術者を総括する地位に置くのは好ましくないと語った。FBIや州警察は共産主義の勉強会や共産党員の会合があると聞きつける度に会場の周辺に赴いて駐車してある自動車のナンバーを広範に記録するのが常だったが、オッペンハイマーとその弟、そしてオッペンハイマー兄弟の何人かの親しい友人らの車のナンバーはそれぞれが複数回記録に残されていたのである。FBIはそればかりではなく、カリフォルニア州サンフランシスコとバークレー近辺で電話会社の秘密裏の協力を得、アーネスト・ローレンスが所長を勤めて原子力開発において重要な役割を果たしている放射線研究所に所属する研究者のうちでオッペンハイマーの弟フランク・オッペンハイマーを含む何人かの政治に関心を持つ科学者と彼らの知人で共産主義者と目されている人物との間の電話での会話を傍受できるようなシステムを構築した。そして、バークレーで民家を取得すると近所の眼を欺くために一階をFBI職員とその家族の通常の住居とし、その二階をこういった電話の通話を傍受して記録する拠点として私服のFBI職員を常時配置した。FBIが動向に注目している人物の中にはオッペンハイマー兄弟はもちろんのこと、ロバート・オッペンハイマーの元恋人のジーン・タトロックも含まれていた。

 

グローブスはこれら一連のFBIの動きをこと細かに知らされていたが、その頃にはすでにオッペンハイマーの人柄の魅力に取りつかれ、またオッペンハイマー共産主義との関わりを追求するFBIも確乎とした確証を得ていたわけではなかったので、オッペンハイマーをプロジェクトの中心に据えるというグローブスの考え方は変わらなかった。グローブスはオッペンハイマーのような人物に信頼され、プロジェクトに招聘されたならば、誰でも間違いなくその要請を承諾し、プロジェクトの完遂のために骨身を惜しまず働くに違いないと思い、オッペンハイマーの人間的な価値に重きを置いたのである。


「そんなことを言ったら、イタリアから来たフェルミハンガリーから来たシラード、ウィグナーやテラー、そしてドイツから来たベーテなども若い頃に元いた国で共産主義に関わっていたかもしれない。資本論の勉強会に出席する程度の共産主義への関心が過去にあった科学者と若い頃に何をやっていたのか追求できない外国出身の科学者を排除したら、プロジェクトは成り立たなくなってしまう。」とグローブスは回答し、オッペンハイマーをプロジェクトの最高責任者の地位から外すようにというFBIの担当官の助言を斥けた。実際、元いた国における思想歴や政治活動歴などを知ることができないという理由でマンハッタン計画の機密維持などを担当する軍隊関連の責任者たちは亡命科学者たちをあまり好ましく思ってはいなかった。しかし、FBIに調査が及ばない旧敵国からの亡命科学者を排除していてはプロジェクトの完遂が危ぶまれるほど、亡命科学者たちは大きな役割を担っていた。FBIの担当者はオッペンハイマーの弟とその妻、オッペンハイマー自身の妻の前夫、昔の恋人などが共産党員であることを挙げ、オッペンハイマーは共産に入党ことしてはいないが、共産党に定期的に寄付を行っていたとしてオッペンハイマー共産主義に深く関わっていることをグローブスに印象づけようとしたが、グローブスはその後もFBIの助言を全く気に留めなかった。

(読書ルーム(102) に続く)

 

【参考】

FBI  または 連邦捜査局 (ウィキペディア)

 

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