【読書ルーム(97) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第4章  マンハッタン計画 (上) 〜軍の関与と計画の拡大 5/5】】 作品目次

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【あらすじ】

グローブス准将は核分裂の惹起と継続、ウラニウムの濃縮、プルトニウムの生産などの過程をこれから先のマンハッタン計画における政府の最終目的であるナチスドイツに対抗しうる兵器の開発を行う場所には機密が完全に保持できる場所が必要であるとしてオッペンハイマーに場所の選定について相談し、オッペンハイマーは自分の別荘がある砂漠地帯の高台を推奨する。

 

【本文】

グローブスがオッペンハイマーに初めて出会ったのはカリフォルニア州バークレーでの滞在日程の最後に近い十月八日だった。

 

オッペンハイマーが理論家であるのに対してグローブスは実務家、オッペンハイマーが伝統に拘束されないユダヤ教徒であるのに対してグローブスは長老派教会の厳格な牧師の息子、と二人の背景はことごとく異なっていたが、原子力開発の今後について語り合ううちに二人の意見は隅々に至るまで一致した。物理学者や化学者たちが熱心な研究の成果として得てきた原子力に関する知識は総合されなければならなかった。そしてそれがナチス・ドイツに対抗する威力となる爆弾の開発という形で結実するのならば、原子力の知識の総合から最終段階に至るまでの過程は全くの極秘のうちに薦められなければならなかった。

 

グローブスは大規模な工場の建設を念頭に置き、極秘を保ちながら物資や人員の輸送が容易に行われるためにはどのような地理的な条件がなければならないかをオッペンハイマーに詳細に説明した。説明を聞いたオッペンハイマーは顔を輝かせてグローブスに言った。
「私が子供だったころ、弟や使用人と一緒に何回も滞在する機会があってそこで学校にも通ったことがある、ニュー・メキシコ州サンタ・フェ郊外のロス・アラモスがその条件にぴったりです。」
グローブスとオッペンハイマーはニュー・メキシコ州の中都市サンタ・フェから五十キロほど北西に位置するロス・アラモスを共に訪ね、グローブスは念頭にある原子爆弾製造工場の条件を一つづつ吟味してロス・アラモスがその条件にかなうということを確かめたxlix[8]。


「私は物理学と砂漠がこよなく好きなんです。」と三十八歳でいまだ青年のように初々しいオッペンハイマーは夢見るような眼差しでグローブスに語った。人類の長い歴史の中で今世紀、十年にも満たないつい最近になって脚光を浴びた原子力が何らかの眼の見える形に結実し、自由と民主主義を信奉する国家や国民によって有用に利用され、ひいては原子力によって世界中から全ての戦争や紛争が根絶されることをオッペンハイマーは夢見ていた。そしてそのためには何としてでも科学の力によって自由と民主主義を信奉する連合国を狂気のナチス・ドイツファシズム、そして軍国主義に対する勝利に導かなくてはならないとオッペンハイマーは心に決めていたのである。

(読書ルーム(98) 波濤を超えて に続く)

 

【参考】

長老派教会 (ウィキペディア)

 

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