【読書ルーム(86) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

『プロメテウス達よ』第3章  プロメテウスの目覚め〜コペンハーゲン 1/3 】  作品の目次

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【本文】

同じ一九四一年の十月、ライプチッヒの大学とベルリンのカイザー・ウィルヘルム研究所を行き来していたハイゼンベルクハイゼンベルクの後輩でかつ片腕とも言える同研究所のカール・フリードリッヒ・フォン・ワイゼッカーと共にデンマークコペンハーゲンで行われる天文学会での講演を要請され、一緒に同地に赴くことになった。ハイゼンベルクは戦争が始まって以来初めて恩師のニールス・ボーアに会う機会を得て喜び、コペンハーゲン行きの準備を整えた。しかし、ナチス・ドイツの占領下にあるデンマークの首都コペンハーゲンで、武力を用いた侵略者の膝下にある国立研究所の所長の講演を、それがいかに著名な科学者によるものであれ、熱心に耳を傾けようという者は少なく、ハイゼンベルクの講演に出席したデンマーク人は、自分の研究テーマではハイゼンベルクの講演の内容を避けて通ることができないと考えた少数の科学者だけだった。コペンハーゲンに赴くに先立ってハイゼンベルクは師のニールス・ボーアに手紙を書き送り、昔どおりに会って話しをしたいと面会を申し込んだ。コペンハーゲンに赴く以上、それはハイゼンベルクにとっては当然の儀礼だった。ハイゼンベルクは恩師ボーアに研究所で再会した。二人は互いの研究の状況について語り合い、ボーアは昔どおりにハイゼンベルクを自宅に招いた。

 

ハイゼンベルクはボーアの指導の下で研究に従事している科学者らと何度か一緒に昼食を取った。ボーアの下で研究をしていたのはデンマーク人ばかりではなく、ヨーロッパの各国出身の科学者がボーアのもとに集まっていたが、ボーアの部下の科学者たちはドイツ人であるハイゼンベルクと食事を共にする時、ナチスによるデンマーク占領政策の話題だけは避けた。折しも、ナチス・ドイツソビエトの領内に進行しようとしていた時節であり、昼食での話題が東方戦線のことになった。ハイゼンベルクと昼食を共にしていた者の中にはポーランド出身の科学者がいたのであるが、そのことを知らなかったハイゼンベルクは一同に向かってこう言った。

「ドイツが北ヨーロッパや西ヨーロッパの国々を占領する必要は全くありませんでした。でも東ヨーロッパにはその必要があるのです。何しろ、東ヨーロッパの国々は後進国で自分たちの国をどうやって統治したらいいかもわかっていないのですから。」

これを聞いたポーランド人の科学者は黙って食事を続けたが、デンマーク人の科学者は声を荒げ、ハイゼンベルクに向かって鋭く言い放った。

「自分の国をどうやって統治したらいいかわかっていない後進国はドイツだ!」

ボーアはこの話をその場に居合わせた科学者から聞いて苦々しく思った。昔から快く思っていなかった教え子ハイゼンベルク国粋主義的な面が自分のいない間に部下の科学者の間で端的に知れ渡ってしまったのである。(予想価格:700円 要キンドル)

(読書ルーム(87) に続く)

 

【参考】

戯曲・演劇「コペンハーゲン」 (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3_(%E6%88%AF%E6%9B%B2)?wprov=sfti1 

 

かわまりの映画ルーム(特番)

ニールス・ボーア (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A2?wprov=sfti1  (ボーア)

ウェルナー・ハイゼンベルク (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF?wprov=sfti1  (ハイゼンベルク)

 

カール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー/ワイゼッカー  (ウィキペディア)

 

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下の画像は作りかけの本作品電子版の表紙です。出版社はお任せ出版社のアマゾン(Amazon International Services)です。ということは今のところアマゾン専用の電子ブックリーダーのキンドルのみで講読が可能だということです。こちらはそれほど高額ではありませんが有料となります。キンドル版には次のような優れた点があります。

・ 縦書き表示であること

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