【読書ルーム(81) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第3章  プロメテウスの目覚め〜最前線からの使者  2/6 】  作品目次

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【あらすじ】

コンプトンは全米各地で原子力開発に携わっている科学者が提出した論文を読み、必要ならば訪問して面談を求めた。平和主義者のコンプトンは国防委員会に初めて提出した報告書では大量破壊兵器製造の可能性には触れず平和利用されるべき新しいエネルギー源の可能性についてのみ述べ、2回目の報告書では全米各地で行なわれている原子力エネルギー開発を一か所で集中して行うことを提案した。コンプトンのこの提案は科学者同士の協力と秘密保持のためだったが、その判断の根拠は全米を旅しながら知シーボーグらが開発した人造元素プルトニウムの存在を知ったことだった。

 

【本文】

原子力開発研究の各種の成果を客観的な評価することを目的に組織された、いわゆるコンプトン委員会は一九四一年の四月に活動を開始し、コンプトンは全米各地で関連の研究に従事している科学者たちを訪問し、研究成果や補助金の使途に関して詳細に質問をし、原子力開発の将来像をまとめていった。

 

コンプトン委員会の最初の報告書は一ヶ月足らずで書き上げられ、五月十七日に国防研究委員会に提出された。この報告書の内容はウラニウムに秘められた原子力の開発可能性に焦点を絞っていた。コンプトンは各種の研究成果を吟味し、原子力は開発可能だという結論に達していたが、あくまでも慎重な姿勢を捨てなかった。

 

原子力の開発は可能ですが、それには長い年月と資金、労力の投資が必要になるでしょう。」とコンプトンら委員会のメンバーは結論づけ、開発可能性の根拠と開発に当たっての障害、主としてそれはウラニウム235の濃縮に関するものだったが、に関して説明した。コンプトンは原子力が戦争に使われる可能性を信じたくなかった。

 

目下、ヨーロッパとアジアで行われている戦争は是非とも、原子爆弾などを使用することなしに、最少限の犠牲者と損害で終結することをコンプトンは切に希望した。したがって、五月十七日に提出された報告書の中でコンプトンは原子力による発電や潜水艦の駆動などの平和的で明るい側面だけを強調した。

 

コンプトン委員会の二つ目の報告書は同年の七月十一日に国防研究委員会に提出された。この報告書の主な目的は、その頃までに全米の多数の研究所でばらばらに行われてきた研究を一箇所に集中することで、同様の研究を行っている科学者が協力しあい、また論文を出版することになしに意見を交換することが可能になるので、原子力開発に関する機密保持が必要になった時でも研究を阻害することなしに容易に機密保持が達成できるということを説くものだった。

 

委員会の委員長に任命されてからこの二番目の報告書を作成するまでにコンプトンは開発研究に携わっ

ている科学者とのさらなる面接をする機会を得たが、その間に原子力開発を遠い将来の可能性から手の届く範囲に引き寄せるいくつかの重要なことが明らかになった。

 

その一つは、コンプトンとは古くからの知り合いで、今やアメリカ人ノーベル賞受賞者の中で先輩と後輩の間柄になったローレンスが、後輩のマクミランが着手し、シーボーグ、ワール、ケネディーらの若い教え子たちが達成した原子番号九十四番の人造元素にウラニウム235と全く同じ程度の核分裂の可能性があり、ウラニウム235とは異なってその人造元素は化学的に取り出すことができるとコンプトンに語ったことだった。

 

コンプトンは原子番号九十四番の人造元素には大きな関心を持ち、研究グループの中心であるシーボーグをシカゴ大学に呼んでその詳細を聞くなどした。カリフォルニア州立大学バークレー校の研究室内ではすでにプルトニウム命名されているこの物質は放射性物質なので遠隔操作によってしか化学的に扱うことはできなかったが、コンプトンはそれを実際にやってみるようにシーボーグに要請したのである。シーボーグはコンプトンにその手順を細大もらさず説明したが、放射線化学者として卓越した腕前を持つシーボーグが極小量のプルトニウムを扱うのを見て、コンプトンはいささかがっかりした。つまり、ウラニウムへの加速粒子の照射によって原子力開発における夢を実現するかのように見えるプルトニウムを生成することはできるのであるが、単位時間内に生成される量が極めて少ないのである。しかし、コンプトンの落胆はすぐに別の情報によって補われることになった。そのうち一つは、ナチスから逃れてアメリカに移住してプリンストン大学の教授の地位を得、一九三九年の夏にシラードと共に大統領当ての提案書を作成する発起人となったユージン・ウィグナーからもたらされた。

(読書ルーム(82) に続く)

 

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