【読書ルーム(79) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第3章  プロメテウスの目覚め〜再び錬金術 5/5 】  作品目次

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【本文】

化学者のシーボーグはやはり、中世以来の錬金術の夢にとりつかれ、シーボーグにワールとケネディーを加えた三人は寝食を忘れて実験と計測に取り組んだ。ウラニウム239が変化して生じる物質の質量数は同じ239だったが半減期が二日余りと短く生成される量が少ないこともあって分析は困難を極めた。


その年の十二月十六日、いつもどおりに酸化ウラニウムに加速重水素を当てることによって生じた物質の放射能を調べていたワールが声を上げた。

ベータ線だけではなく、ガンマ線も出ている。」

「生成された原子番号九十三番の物質の同位体から出ているのかもしれない。ベータ線を放出する九十三番元素とは別の崩壊過程を経て別の物質に変わるのかもしれない。観察を続けよう。」とシーボーグは言った。

 

新しく生成された原子番号九十三番の物質が発する放射線を観察し続けるうちに、化学的に分離することのできない、質量数と崩壊過程だけが異なる二種類の同位体の混合物質からはアルファ線が放出されるようになった。


原子核で何かが起きている。」と、三人は勇み立った。
ガンマ線を出す原子番号九十三番の同位元素をもっと多量に生成しよう。」
化学的な識別方法が及ばない原子核の組成だけが異なる同位体の識別、そして化学的な識別方法が確立されていない新物質の識別に放射線が果たす役割に対して三人がこれほど恩恵を感じ、放射線を発見したベクレルやキューリー夫妻に感謝したことはなかったであろう。三人はクリスマスと新年の休みを返上して同じ過程を繰り返し、「ガンマ線を出す原子番号九十三番の新元素」を生成した。それに伴い、その新元素がガンマ線を出しながら変化していく未知の物質がわずかずつ蓄えられていった。ガンマ線を発する原子番号九十三番の半減期は五十年、そしてその物質が変化して生じる未知の物質の半減期は二万四千年という驚くべき長さで両者ともに非常に安定した物質だということがすぐさま判明した。


一月半ば、「ガンマ崩壊する原子番号九十三番の同位体」が変化していく物質の化学的性質を特定する仕事が残されているものの、マクミランが試みた方法で半減期五十年の非常に安定した物質が生成されることは確実だったので、シーボーグはもはや発見を実験室内に留めておくことはできなかった。シーボーグは先輩マクミランの名前を最初に冠し、「マクミラン、ワール、ケネディー、シーボーグによる共同研究の結果」として今までにわかったことを学会誌に発表した。


そして、一九四一年二月二十三日、折からの嵐の中、三人は真夜中を過ぎても帰宅を忘れ、半減期
二万四千年の未知の物質の化学的性質特定のために必要な試験リストの最後に残されていた酸化の実験に取り組んだ。そして翌日の夜明け近くになって結果の一覧が完成した。半減期二万四千年の未知の物質の化学的性質は今までに知られていた全ての元素の性質と異なっていた。シーボーグらは終に錬金術を成し遂げたのである。


シーボーグらはマクミランと共に生成した原子番号九十三番の不安定な新元素をネプトゥニウム、ネプトゥニウム238がガンマ線を出しながら変わっていく安定した原子番号九十四番の新元素をプルトニウムと名付けることにした。それまで元素の周期律表で最後に位置していたウラニウムは太陽の周囲を巡る惑星ウラヌス(天王星)が発見されたのと同じ年に発見されたことでこのように名付けられたのであるがネプトゥニウムとプルトニウムの名前はそれぞれ、天王星の外側を巡る海王星(ネプトゥーン)と冥王星プルトーン)から採用された。


シーボーグらの驚きと喜びは新元素そのものの発見にとどまらなかった。フェルミの教え子でイタリアから亡命してきてカリフォルニア州立大学バークレー校で研究に従事していたエミリオ・セグレのところにアルファ線を発している極小量のプルトニウムが届けられた。元素への中性子照射にかけてフェルミの下で十分な経験を積んでいたセグレは、プルトニウムウラニウム235と同様に中性子によって核分裂の連鎖反応を起こすことを確認し、シーボーグらにその事実を伝えた。


セグレの検査結果を知らされたシーボーグ、ワール、ケネディーはお互いに顔を見合わせた。中性子照射によってウラニウムから新しいエネルギーを引き出そうとしている物理学者たちは、天然ウラニウムの中に一パーセントしか含まれず、残り九十九パーセントを占めるウラニウム238と化学的には全く同じ性質を持つウラニウム235を取り出すことさえできれば、と考えているんじゃなかったっけ?」

 

シーボーグらは錬金術を目指した自分たちの研究がもたらした驚くべき結果に呆然とした。

プルトニウムウラニウム235のように核分裂を起こす。そしてプルトニウムは、ウラニウム235とは異なって、化学的に取り出すことができる。」

(読書ルーム(80) 最前線からの使者 に続く)

 

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