【読書ルーム(77) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第3章  プロメテウスの目覚め〜再び錬金術 3/5 】  作品目次

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【本文】

アメリ東海岸でシラードらが核分裂の連鎖反応がドイツの科学者によってもたらされることを憂慮し、アメリカ西海岸ではローレンスがヨーロッパの動きに懸念をつのらせながらも引き続き新たなサイクロトロンの開発のための財源を考慮し、かつサイクロトロンの新しい用途に関する各種の提案をさばくことに余念がなかった頃、ローレンスの周囲には、応用とはかけ離れた宇宙理論に傾倒しながら一方で女性関係で浮名を流していたオッペンハイマーの他にも、世間の動きとは無関係にひたすら学究のみに打ち込む実験系の科学者がいた。

 

一九三九年初、ハーンとシュトラスマンによる核分裂の確認が伝えられ、アメリカ東部でボーア、フェルミ、シラードなど外国出身の科学者たちが沸き立っていた頃、大学院博士課程を終えたばかりの若い化学者グレン・シーボーグは、その頃から専門誌に掲載されて次々ともたらされる核分裂に関する新しい意見や情報をむさぼり読んでは感慨に浸るのが常だったが、化学者としてローレンスの門下に入ったシーボーグの関心の的は物理学者一般のそれとは異なっていた。


「四年前にフェルミが生成したと信じたのはやはり新元素ではなかったんだ。ウラニウムへの中性子線照射で生じた物質がありきたりの金属のバリウムだったとは・・・。」とハーンの論文に接したシーボーグは思った。シーボーグはローレンスの指導の下でサイクロトロンの操作に習熟し、原子核への加速粒子照射の腕前を磨いている若い物理学者マクミランの研究内容に惹かれていた。ウラニウム原子核への中性子照射が新元素生成に繋がらなかったことは残念だったが、その結果を決定的に明らかにしたのが化学者のオットー・ハーンだということでシーボーグは勇み立ったのである。「化学者だって物理実験の手順などは簡単に覚えられる。しかし、原子核を対象として物質の核心に迫ろうとする物理実験の結果をより良く理解するためには何よりも化学の知識が必要とされる、」とシーボーグは思った。シーボーグの夢はやはり、千年以上も前から錬金術師が夢みてきた元素の転換、とりわけ周期律表上に名称を記されていない元素、原子番号ウラニウムを越える超ウラニウム元素を人工的に生成することだった。シーボーグはサイクロトロンを駆使して加速粒子の照射を続けるマクミランの実験手順を細大漏らさず習得しようとした。

 

フェルミ中性子を加速するのではなく減速して原子核に当てて核分裂という有効な結果を生み出した

がローレンス教授が開発したサイクロトロンを使えば、中性子の四倍の重さがあるヘリウム原子核やもっと重い陽イオン原子を加速して対象となる原子核に当てることができ、きっと何か有効な結果が得られるに違いないとシーボーグは考え、核エネルギー利用の可能性にわき立っている物理学者たちを尻目に現代の錬金術の夢を膨らませた。

 

一九四○年の春、アメリ東海岸コロンビア大学フェルミとシラードが連邦政府からの補助金によってもたらされた炭素の山に埋もれ、炭鉱夫のような風体になりながら中性子の照射速度制御を懸命に試みていた時、アメリカ西海岸のカリフォルニア州バークレーでは若い物理学者のエドワード・マクミランウラニウムサイクロトロンによって加速された粒子を照射する実験に余念がなく、マクミランの側には常に若い化学者のシーボーグが控えて残留物質の特定を試みていた。

(読書ルーム(78) に続く)

 

【参考】

グレン・シーボーグ (ウィキペディア)

エドウィン・マクミラン (ウィキペディア)

 

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