【読書ルーム(58) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【 『プロメテウス』第3章  プロメテウスの目覚め 〜 発見は海を渡る 2/2】  作品目次

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【本文】

フェルミとシラードはフェルミがニューヨークに到着して間もなく、コロンビア大学の正門前にあるキングス・ホテルのロビーで初めて互いに名乗りを上げていた。ノーベル賞受賞者であるフェルミは当然のことながら、シラードを含む多くの人間に顔を知られていたが、シラードはアインシュタインの友人でいくつかの画期的な特許を取っているというだけで多くの人間には知られていなかった。フェルミにじかに接したシラードはフェルミの開放的な性格を理解するのに苦しんだが、一方のフェルミにはシラードは気むずかしく扱いにくい人間に見えたようである。性格の全く異なるフェルミとシラードの二人の間の架け橋の役割を果たすことができたのはやはり、亡命ユダヤ人科学者たちとアメリカ社会の架け橋役を勤めていた、ポーランド生まれでニューヨーク育ちの、気さくな性格ながら厳格なユダヤ教徒の物理学者イシドール・ラバイだけだった。

 


ボーアがもたらした核分裂の発見の知らせに接した後のフェルミとシラードの反応も二人の性格や背景の違いを反映した全く異なったものだった。大いに科学者としての意欲をかきたてられたフェルミは喜びや興奮を分け隔てなく人に語った。自分がローマで行っていた研究の延長として、今までは役には立たないと考えられていたウラニウム中性子線を当て、その原子核核分裂を継続的かつ連鎖的に引き起こすことによってよって人類の使用に供することのできる画期的なエネルギー源と開発するという新たな研究課題を得たからである。

 


一方のシラードは六年前にロンドンの交差点を渡ろうとしていた時に抱いた、科学の飛躍的発展と表裏をなす暗い見通し、すなわち「中性子が当たって原子核に変化が生じるような物質があれば、中性子を当てられた原子核は新たに中性子を放出し、連鎖反応として莫大なエネルギーが放出され、それは恐るべき兵器の開発に結びつかもしれない。」がやはり実現されうるということを知って大きな恐れを抱いた。二人に共通したいたのは事実を確認したいという欲求だったが、コロンビア大学で授業を受け持つこともなく、空いている実験施設を借りているだけの居候の身だったシラードのほうは、同郷のビジネスマンから当時としては大金の二千ドルを借り入れ、ラジウムなど、研究に必要とされる物資を購入して実験に取り掛かる計画を立てた。核分裂の過程が莫大なエネルギーの放出、ひいては恐るべき兵器の開発に繋がるかもしれないという懸念をシラードは同郷のウィグナーとテラーを手始めの相手として、潜めた声で熱心に語り、やがてニューヨーク州北部のロチェスターの大学で教鞭を取るデンマーク出身の物理学者ワイスコプフもシラードに賛同した。ナチス・ドイツによるユダヤ人弾圧を逃れるためにアメリカに渡った四人にとって、ナチス・ドイツ核分裂の膨大なエネルギーを大量破壊兵器の開発に結びつけることは実現の可能性が非常に高い悪夢に思えたのである。

(読書ルーム(59) に続く)

 

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