【読書ルーム(38) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第2章  新時代の錬金術師たち〜科学の教皇旧大陸を去る  5/8 】  作品目次

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【本文】

イレーヌ・キューリーとフレデリック・ジョリオはアルファ線を受けたベリリウム原子核の内部でどのような変化を起こしたのかも発生する新種の放射線の正体についても全く見当がつかなかった。しかし、イギリスで二人の発見の知らせに接した物理学者のジェームズ・チャドウィックには思い当たることがあった。

 

チャドウィックがマンチェスター大学のラザフォード教授のもとにいた頃、同じラザフォードの門下にモースレーという若い優秀な科学者がいた。モースレーは物質の質量を決定する原子核はプラスの電気を帯びた陽子(プロトン)だけから成るのではなく、電気的に中性な要素も質量の決定要因になっているのではないかと考えていた。すなわち、原子核はプラスの電気を帯びた陽子(プロトン)と電気的に中性な要素とで成り立っているという仮説を持っていたのである。そう考えなければ、マイナスの電気を帯びた電子を二個持つヘリウム原子の質量が電子を一個しか持たない水素原子の質量の四倍になることが説明できなかった。原子そのものは、陽子(プロトン)の質量と比べるとほとんど問題にならないほど軽い電子を一個失うかあるいは電子を一個余分に得た、いわゆるイオンと呼ばれる化学的に活性化された状態にある場合を除き、必ず同じ数の電子と陽子(プロトン)を持っている。残念なことにモースレーはこの考えを発展させることなく、世界大戦に徴兵されて一九一五年に戦死してしまった

モースレーの考えを裏付けて真実に一歩迫る発見を成し遂げたのも同じくラザフォードの教えを受けた科学者だった。ラザフォードがカナダのマクギル大学で教鞭を取っていた間、研究を共にしたソディーは化学的には全く同一の性質を持つ元素の原子に質量のばらつきがあることを確認し、こういった質量の異なる原子をモースレーが提唱していた呼称である「アイソトープ(同位元素)」と呼ぶことにした。ソディーはこの功績によってニールス・ボーアノーベル物理学賞を受賞する前年の一九二一年にノーベル化学賞を受賞した。

 

ソディーの業績、そしてジョリオ=キューリー夫妻による新たな発見を踏まえたチャドウィックはこれら全てが統一的に説明できるのではないかと考えた。そして、実験と検証を繰り返した後の一九三二年、チャドウィックは原子の質量を決定するのは陽子(プロトン)と並んで電気的に中性な中性子(ニュートロン)であること、そしてジョリオ=キューリー夫妻ガアルファ線を照射することによってベリリウムから発生させたのは世界大戦の前にモースレーが予言していた中性子であるということをつきとめたのである。

(読書ルーム(39) に続く)

 

【参考】

ヘンリー・モーズリー (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%AA%E3%83%BC_(%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6%E8%80%85)?wprov=sfti1

 

アーネスト・ラザフォード (ウィキペディア)

ジェームズ・チャドウィック (ウィキペディア)

フレデリック・ソディ ー (ウィキペディア)

 

 

【解説】

アインシュタインアメリカに渡った後にもアインシュタインが生まれ育ったドイツ語圏以外でのヨーロッパでの科学者の活躍の記述は続きます。本セクションは主にイギリスの科学者の活躍について述べます。

 

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