【読書ルーム(18) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』第1章  プロメテウスの揺籃の地 12/27. 〜 ハイゼンベルクの青年時代〜 隆盛を極めるドイツの学府(5)】  作品の目次

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【本文】

オーストリア出身の女性リーゼ・マイトナーとドイツ人オットー・ハーンが一緒に実験を行っている光景を見れば、息の合った二人は夫婦に違いないと誰もが思ったであろう。しかし、二人は宗教の違いのせいで結婚することはなく、オットー・ハーンが別の女性と結婚して家庭を築いても研究一途のマイトナーは意に介することもなかった。

 

リーゼ・マイトナーとオットー・ハーンの違いは国籍、性別と宗教だけではなく、マイトナーは物理学者、ハーンは化学者だった。保守的なオーストリアの女学校を卒業し、物理学と数学を学ぶためには男ばかりの大学の講堂に男装して忍び込むか、あるいは机の下に隠れてでも聴講することをも辞さなかったマイトナーには、原子レベルでの物質の本質に迫るためには物理学者と化学者との協働が必要だということを見抜き、優れた化学者ハーンを共同研究者に選んだ先見の明があった。また、ハーンは十九世紀の終わりに最新鋭の実験設備を備えていたカナダのマックギル大学に留学した際、同じ時期に同大学の教授となってイギリスから来ていたニュージーランド出身の物理学者ラザフォードが理論物理学から実験物理学へと方向を変えながら優秀な化学者との協力の必要性を日々感じていると知って物理学者との共同研究の可能性に目覚め、それまでの関心の中心だった有機化学を捨て、将来は一大分野に成長すると見られる放射線化学を一辺倒に追求するようになった。

 

ハーンには第一次世界大戦中にフリッツ・ハーバーに従って毒ガスの合成に携わった苦い経験があった。

 

「実験室で毒ガスを合成している間、化学者はそれを吸った兵士の苦しみを想像してみることはない。」とハーンは後に第一次世界大戦中の自分の行為を心から悔い、原子力開発において無視することのできない重要な業績を残しながら、ナチス・ドイツの治世下で原子爆弾の開発に対し、決して声高にではなかったが常に反対姿勢を示すことになる。

 

終生独身を通したマイトナーはハーンの名前に常に敬称の「へール」をつけることを忘れず、ハーンもマイトナーの名前に「フロイライン」の敬称をつけて呼ぶのが常だった。マイトナーは論文を発表する際には常にハーンの協力を評価することを忘れず、物理と化学の両分野にまたがる研究成果を発表する時など、論文の巻頭でまるで夫の名前を立てるかのようにハーンの名前を先に記した。それでもマイトナーの実績は評価され、マイトナーは四十台半ばでベルリン大学の教授に就任し、その業績と実力はドイツ内外で遍く知られた。しかし、ナチスの台頭と共にユダヤ人であるマイトナーはベルリン大学を追われ、カイザー・ウィルヘルム研究所でかくまわれるようにして研究に専念しなければならなくなる。そしてマイトナーとハーンの共同研究の成果はハーンの名前だけを冠して発表されるようになり、ハーンは後にマイトナーを差し置いて単独でノーベル賞を受賞することになるのである。

(読書ルーム(19) に続く)

 

 

【参考】

オットー・ハーン (ウィキペディア)

リーゼ・マイトナー (ウィキペディア)

 

ラザフォード (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89?wprov=sfti1

 

 

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