【読書ルーム(2) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』プロローグ 2/6 〜 アインシュタインとキューリー夫人】 作品の目次

このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属します。

 

【あらすじ】

キューリー夫人と半世代年下のアインシュタインは正反対の背景や科学者としての態度を持っていた。レントゲンによるX線の発明、ベクレルによる放射線の発見、自身と夫とで存在を確認した多大なエネルギーを発しながら質量は減じないラジウムの発見など従来の科学の理論に反する事象が確認された時代に活躍したキューリーは実践家であり、それらを包括する理論構築を託された世代に属するアインシュタインは夢想家だった。二人は互いに尊敬・信頼しながらも相入れない。

 

【本文】

​持ち前の空想癖のせいでスイスの理学学校を優秀とは言えない成績で卒業したアインシュタインは教職を得ることがままならならずスイスの特許許可局に務めながら宇宙を統一的に説明する理論を模索し続け、一九〇五年にいわゆる特殊相対性理論を完成させ、光の速さを基準として宇宙的な規模で考察した場合、地球上では確定している時間、長さ、質量といった尺度が相対的なものであるということを論証した。また、これらの尺度を基準として設定されているエネルギーも相対的なものでしかないのである。しかし、光の速度を絶対的な基準としてエネルギーというものの本質を定義しなおしたアインシュタインは一つの重要な結論に達した。

「質量とエネルギーの間には光速を係数とした相関関係ある。」

 

特殊相対性理論からアインシュタインは有名な方程式「E=mc2」を導いた。「E」はエネルギー、「m」は物質の質量、「c」は光速を意味する。すなわち、質量のあるすべての物質は莫大なエネルギーに変換されうるのである。したがって、ラジウムが呈する一見すると熱力学の第一法則に逆らっているかのような性質はこの方程式によって説明できる可能性があった。自己の理論の妥当性についてアインシュタインは「ラジウムが質量を減らすことなくエネルギーを放出しているはずがない。質量は絶対に減っているのだ。ただし減った量というのは単位時間内に放出したエネルギー量を光速の自乗で割ったものだから極小の値にしかならない。それほど微小な質量の変化を計測する手段がないだけなのだ。」と考えたであろう。

 

​マリー・キューリーがラジウムの化学的性質の解明によって二度目のノーベル賞受賞となるノーベル化学賞を受賞した一九一一年、アインシュタインはマリー・キューリーに会って自分の考えを述べた。

 

​初めて出会ったマリー・キューリーはアインシュタインに冷淡で、気難しく陰気な性格の持ち主のように見えた。その後、何回かの出会いの後でもアインシュタインに対するマリー・キューリーの冷ややかな態度は変わらなかった。しかし、実際にはマリー・キューリーはアインシュタインの理論的な才能を非常に高くかっていたのである。アインシュタインと初めて出会った頃と前後し、二度にわたるノーベル賞の受賞者に対して与えられた世間の大きな称賛とはうらはらに、マリー・キューリーは個人的にも社会的にも困難な状況にあった。マリー・キューリーは夫ピエールを亡くした孤独の中で夫が残した学問上の課題に取り組み、研究所を運営し、二人の娘を育てなければならなかった。外向けには、フランス・アカデミー会員への立候補が思いもかけない厄介な問題をもたらしていた。フランス・アカデミーは外国出身の女性科学者の入会を拒んだだけではなかった。マリー・キューリーは、フランス・アカデミー入会を推挙してくれた妻子ある男性科学者との不倫の噂を立てられ、精神的に打ちのめされた。

 

​もちろん、このような事情があるにせよ、マリー・キューリーには多弁でウィットに富んだ夢想家アインシュタインを個人的に嫌う理由はなかった。しかし、アインシュタインと積極的に親交を結ぶつもりもマリー・キューリーにはなかったようである。夢想家のアインシュタインが悠久の広大な宇宙に想いを馳せた結果を数式で表現して「相対性理論」と銘打って発表したのを実践家のマリー・キューリーは自分とは異なる学問姿勢だとして評価を保留した可能性もある。マリー・キューリーは膨大な量のウラン鉱、いわゆるピッチブレンドを処理し、わずか数ミリグラムのラジウム塩を得たのであるが、搾取の下にある工場労働者のような苛酷な労働を経ずしてはラジウムの存在は証明できず、その存在が証明されて以来、わずかの分量しかないラジウムの性質、原子という極小の世界で極小の時間単位で起きているドラマの概要を化学分析の技術を駆使して解き明かすことに全精神を奪われていた。

 

アインシュタインはマリー・キューリーを確かに尊敬していたが、一方のマリー・キューリーはアインシュタインを遠巻きにして見守りかったのだろうという推測が可能である。それにしても二人の基本的な性格や家庭的背景は全く異なっていた。

読書ルーム(3) に続く)

 

 

【お知らせ】

下の画像は作りかけの本作品電子版の表紙です。出版社はお任せ出版社のアマゾン(Amazon International Services)です。ということは今のところアマゾン専用の電子ブックリーダーのキンドルのみで講読が可能だということです。こちらはそれほど高額ではありませんが有料となります。キンドル版には次のような優れた点があります。

・ 縦書き表示であること

・ 文字の大きさを変えられ、また字体を変えたり太字にしたりできること

さらにキンドルは数百冊以上の書籍を入れることができ、重量は文庫本並みです。アマゾンはお任せ出版社なので内容や誤字脱字などには自分で責任を持たないといけませんが精一杯努力する所存です。

(予想価格は700円 要キンドル)

 

f:id:kawamari7:20211231162047j:image