【読書ルーム(1) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス』プロローグ 1/6 〜 フリッツ・ハーバー作品の目次

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【あらすじ+解説】

ドイツ人科学者フリッツ・ハーバーは産学恊働の礎石を築いた。私生活に於いてハーバーはより多くのドイツ人と協調するために父祖の伝統だったユダヤ教を捨て、博士号を持つ妻をそれに従わせた。

 

【本文】

産業革命後に育った大掛かりな工場設備などを利用し、物理と化学の境界分野を極めようとしたドイツ人がいた。現在のポーランド領ブレスローで伝統的なユダヤ人家庭に生まれたフリッツ・ハーバーは、大学を卒業した後で将来の可能性を考えて自らの宗教をユダヤ教からルーテル派プロテスタントに変えた。三十三歳の時、ハーバーは化学の博士号を取得したばかりのユダヤ人女性クララ・インマーバルトと結婚し、妻の宗教も自分に倣ってルーテル派プロテスタントに変えさせた。当時のドイツで博士号を有する女性は数えるほどしかいなかったが、ハーバーの妻となったクララ・インマーバルト・ハーバーはフランスで学位を得たポーランド出身のマリー・キューリーとは異なり、夫とともに研究に従事することはなく、研究と産業界への接触に忙しい夫ハーバーをドイツで伝統的に台所、教会への奉仕、子育ての3Kと言われる内助によって支えることに専念した。ハーバーは物理化学の知識によって産業を飛躍的に発展させる可能性を真剣に信じ、その実現に向けて努力していた。

 

​ハーバーの専門は熱力学で、特に高温や高圧下での分子の運動に詳しかった。同じく熱力学を専攻するネルンストが空気中にふんだんに存在し、通常の気温・気圧の下では他元素と化合することのできない窒素が高温・高圧下で水素と化合する可能性を理論的に説明したことを受け、ハーバーは窒素と水素の化合物であるアンモニアを人工的に生成する方法を模索するようになった。

 

たんぱく質を構成する元素の一つで空気中に約八十パーセント存在する窒素は豆科の植物の根に寄生する根粒最近によって固定され、豆科に属するレンゲやクローバーなどを育成した後に土ごと掘り返して農作物の肥料とすることは世界各地で行われていたが、耕地が限られた国々では窒素化合物を含む鉱産物を肥料とせざるを得ず、このような鉱産物を自国内で産出しないドイツは南米のチリから窒素化合物を含む鉱産物を肥料として輸入しなければならなかった。

 

一九〇九年、ハーバーは摂氏二百度の高温化で空気中の窒素と石油精製の過程で発生した水素を化合させることに成功した。しかし、その分量はきわめて少なく、肥料として量産するための採算を達成することはできなかった。ハーバーはより高い温度と圧力を可能にする装置と窒素と水素の化合を促進する触媒の両方を探し求めた。そして終に一九一三年、化学会社BASFの技術者ボッシュの協力を得て、摂氏四百五十度の高温と二百五十気圧の高圧の下、酸化鉄の触媒作用によってアンモニアを量産することに成功した。こうしてフリッツ・ハーバーは、産業面でイギリスに遅れを取っていたドイツを、物理化学の知識によって世界の化学工場とするための礎石を築いたのである[ii]。

*          *

読書ルーム(2) に続く)

 

【参考】

フリッツ・ハーバー (ウィキペディア)

クララ・インマーバルト・ハーバー (ウィキペディア クララ・イマーヴァール)

 

BASF (ウィキペディア)

 

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